中国の魏鳳和国務委員兼国防相は、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(通称シャングリラ会合)での演説で「台湾を(中国本土から)分裂させるなら、必ずや一戦をいとわず、代償を惜しまず徹底的に戦う」と表明した。
台湾独立の動きに対しては武力行使も辞さない考えを示したものだ。中国による台湾侵攻への警戒を強める必要がある。
「独立の企ては断固粉砕」
魏氏は「台湾問題は中国の内政だ。祖国統一を絶対に実現する」と強調。台湾民進党政権が「漸進的な独立」を目指していると指摘して「台湾独立の企ては断固粉砕する」と改めて言及し、台湾への武器売却などで関係を強める米国に「断固とした反対」を表明した。
しかし台湾の国立政治大学が昨年7月に公表した世論調査結果によれば、「現状維持」を求める人は55・7%、独立は31・4%で、中国との統一は7・4%にすぎない。また、自分を中国人ではなく台湾人と答えた人は63・3%に上った。
台湾の蔡英文総統は現状維持路線を掲げている。中国が台湾の世論を無視し、現状維持のための取り組みを「独立の企て」として統一を図ることは決して容認できない。
中国の習近平国家主席は、高度な自治を保障する「一国二制度」によって台湾を統一する方針を示している。だが今年7月で返還25年を迎える香港では、中国が返還後50年間は維持すると約束した一国二制度が、2020年6月の国家安全維持法施行で骨抜きとなって中国共産党政権の強権統治が進んでいる。台湾の人たちが警戒感を示すのは当然だ。
オースティン米国防長官は米中国防相会談で魏氏に対し、台湾問題をめぐって「一方的な現状変更」への反対を表明。安保会議の演説では「台湾海峡の平和と安定を維持することは米国の利益だけでなく、国際的な懸念事項だ」と訴えた。日米両国は民主主義の価値観を共有する台湾との連携を深め、中国を牽制(けんせい)しなければならない。
中国が台湾に侵攻した場合、中国が一方的に領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島を含む先島諸島を攻撃するとの見方も出ている。台湾と日本最西端の沖縄県・与那国島は約110㌔しか離れていない。
日本は「台湾有事は日本有事」と捉え、対処する必要がある。中国による台湾侵攻の際には、安全保障関連法に基づいて集団的自衛権を行使し、自衛隊は米軍と共同作戦を遂行すべきだ。このための計画策定が急務である。台湾での邦人保護も大きな課題だ。
地域の航行の自由守れ
岸田文雄首相は安保会議の講演で、日本が主導する「自由で開かれたインド太平洋」構想に関する行動計画を来年春までに策定すると表明。インド太平洋諸国への巡視船供与など、3年間で約20億㌦(約2680億円)の支援を打ち出した。
中国の台湾侵攻抑止を図る上でも、日本は米国やオーストラリア、インドなどと協力し、インド太平洋地域で航行の自由や法の支配を守って地域の安定と繁栄に貢献する必要がある。