
北朝鮮外務省が声明で日本人拉致問題について「既に全て解決され、もはや朝日間の問題として存在しない」と改めて主張した。
しかし、全ての被害者の帰国や実行犯の引き渡しは実現していない。北朝鮮が「国家犯罪」である拉致の幕引きを図ることは許されない。
小泉氏訪朝で「解決済み」
北朝鮮の声明は、岸田文雄首相が拉致被害者全員の即時帰国を求める「国民大集会」に出席したことを受けて出されたものだ。これに対し、松野博一官房長官が「主張は全く受け入れることができない」と非難したのは当然である。
北朝鮮は2002年9月の小泉純一郎首相訪朝で拉致問題は「解決済み」との立場だ。この時の日朝首脳会談で、北朝鮮は日本人13人の拉致を初めて認めて謝罪し、横田めぐみさんら8人の「死亡」を伝えた。
しかし「死亡」を裏付ける客観的証拠はない。めぐみさんに関しては、北朝鮮が04年11月に「遺骨」とされるものを提供したが、日本政府が実施したDNA型鑑定で別人のものと判明している。
北朝鮮は14年5月の「ストックホルム合意」で、拉致被害者の再調査を日本に約束した。その後、北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返したため、日本政府は新たな独自制裁を決定。北朝鮮は16年2月、再調査を全面中止し、同合意を一方的に破棄した。拉致問題への不誠実極まりない態度には激しい憤りを禁じ得ない。
解決への進展が見えない中、被害者家族の高齢化が進み、亡くなる人も相次いでいる。めぐみさんの父、滋さんも2年前に87歳で死去した。滋さんは1997年に全国の被害者家族らと「家族会」を結成。初代代表を務め、早期救出を求める講演や署名活動に奔走したが、めぐみさんと再会することはできなかった。被害者家族の悲痛な思いは察するに余りある。
岸田首相は集会で「いまだに多くの被害者の方が北朝鮮に取り残され、本当に申し訳ない」と述べた上で、金正恩総書記と無条件で直接向き合う決意を表明。「全ての拉致被害者の一日も早い帰国実現に向け、政府を挙げて全力で取り組む」と語った。岸田政権は拉致問題を最重要課題と位置付けている。解決を急ぐべきだ。
このためには、米国や韓国をはじめとする各国との協力が欠かせない。バイデン米大統領は先月の訪日の際、めぐみさんの母、早紀江さんや田口八重子さんの長男、飯塚耕一郎さんら被害者家族と面会し、早期解決を目指して日本側と緊密に連携していく考えを示した。日本は国際社会に対し、北朝鮮の拉致・核・ミサイル問題の包括的解決を目指す方針を改めて明示する必要がある。
スパイ防止法を制定せよ
北朝鮮による日本人拉致を許した背景には、北朝鮮の工作員や協力者の活動を取り締まるための法整備がなされていなかったことがある。
こうした悲劇を二度と繰り返さないためにも、政府はスパイ防止法を早急に制定しなければならない。