
ブリンケン米国務長官はワシントン市内でバイデン政権の「中国戦略」について演説し、「中国は国際秩序をつくり変える意図と実行する経済的、外交的、軍事的、技術的な力を持つ唯一の国だ」と強調した。
インド太平洋地域で軍事・経済両面で影響力を強める中国への危機感を改めて示した演説だと言える。
国務省に部局横断チーム
ブリンケン氏は「習近平総書記(国家主席)の下、中国共産党は国内ではより抑圧的、国外ではより攻撃的になっている」と批判。「インド太平洋地域で勢力圏をつくり上げる野望を公にした」と強い警戒感をあらわにした。
ウクライナでロシアの侵略が続く中でも「中国がもたらす国際秩序に対する最も深刻で長期的な挑戦に集中し続けていく」決意を示した。ウクライナ危機への対応も重要だが、中国に対する警戒を怠ることができないのは当然である。
ブリンケン氏は「今後10年間が決定的に重要」として中国への対抗姿勢を鮮明にし、国内産業基盤を強化するための「投資」や同盟・友好国との「連携」を推進した上で、中国との「競争」で優位に立つとの方針を示した。また、対中政策を調整する国務省の部局横断チーム「チャイナ・ハウス」の設置を発表した。このチームを対中外交強化に生かす必要がある。
台湾政策については「(中国本土と台湾は不可分とする)『一つの中国』政策を維持する」と強調。一方、中国が台湾に対して、世界の国々との関係を断ち切ろうとしたり、国際機関の活動への参加を妨害したりするなど威圧を強めていると厳しく批判し、台湾の防衛に関与を続ける姿勢を示した。
バイデン大統領は日米首脳会談後の共同記者会見で、中国による台湾侵攻に米国が軍事介入する意思があるかと問われ、「イエス。それがわれわれの責務だ」と答えた。歴代米政権は台湾防衛を明言しない「戦略的曖昧さ」を維持してきたが、ウクライナ危機を受けて「台湾統一」を目指す習政権の動向に警戒が強まる中、バイデン氏の発言は「一つの中国」政策を維持しつつ、アプローチを変える米国の新たな姿勢とみるべきだ。
ただ、ブリンケン氏が「中国との新冷戦は望んでいない」と明言したことには疑問が残る。中国が東・南シナ海で力による一方的な現状変更を図るなど、覇権主義的な動きを続けている以上、自由や「法の支配」などの価値観を共有する民主主義諸国との対立は避けられないはずだ。中国に少しでも甘い態度を取れば、付け込まれることを肝に銘じる必要がある。
米国や同盟国は対抗を
対中政策に関する演説は、トランプ前政権でもポンペオ前国務長官が2020年7月に行っている。ポンペオ氏は「中国共産党政権がマルクス・レーニン主義政権であることを忘れてはならない。習氏は、破綻した全体主義思想の真の信奉者だ」と訴えた。
国際秩序を乱そうとする中国に対して、米国やその同盟・友好国は包囲網形成を急ぎ、連携して対抗しなければならない。