
バイデン米大統領が就任後初のアジア歴訪で、政権交代間もない韓国の尹錫悦大統領と初めて会談した。両首脳は同盟強化を確認した上で「力による現状変更」の試みを止めない中国、核・ミサイルにより周辺国に深刻な脅威を与え続ける北朝鮮に対し、牽制の枠組み強化や強力な抑止力に基づき断固たる姿勢で臨むことを確認した。まずは評価したい。
文氏の弱腰外交と決別
今回の会談で最大の成果は、これまで中朝に対し低姿勢・擁護に終始し、日米との関係をぎくしゃくさせてきた韓国・文在寅前政権の路線を、尹氏が見直したことだろう。予想された路線転換とはいえ、バイデン氏が尹氏と直接会談して最も確認したかった点ではなかろうか。
共同声明には対北抑止力の強化が具体的に盛り込まれた。米国は「核、通常兵器およびミサイル防衛能力を含む全ての範疇の防衛力」で「韓国に対する拡大抑止」をすると改めて約束。文前政権時代に北朝鮮を刺激しまいと縮小してきた米韓合同軍事演習については「範囲と規模を拡大」することで一致した。
会談は北朝鮮が7回目の核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射の準備を完了したとみられる最中行われた。毅然(きぜん)とした態度で抑止力強化を打ち出した意味は大きい。
両首脳は対北抑止と関連し、日米韓3カ国による協力の重要性を強調した。韓国では日本との安全保障面の協力に慎重な見方が根強いが、米国を介した日韓協力が再び活発になる可能性が出てきた。
両首脳は、覇権主義を続ける中国を牽制(けんせい)する枠組みを重視することも確認した。尹氏はインド太平洋戦略を歓迎し、「脱中国」の半導体供給網など経済安保を強化するため、米国が提唱するアジア諸国との連携である「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」に「協力」すると約束。日米豪印4カ国による戦略的枠組み(クアッド)にも「関心」を示した。中国の反発や経済報復を恐れ、中国包囲網への参加に弱腰だった文氏の路線と決別した形だ。
ロシアのウクライナ侵攻に伴い、国際社会が中国による台湾侵攻の可能性に一段と関心を寄せる中、両首脳は「台湾海峡の平和と安定維持の重要性」をインド太平洋地域の安保における「核心的要素」と位置付けた。中朝にロシアを加えた全体主義国家の横暴を許さないという明確なメッセージを発信したものと言えよう。
バイデン氏は尹氏の大統領当選が決まったわずか数時間後に電話で祝意を伝えるなど、尹氏に格別の期待を寄せた。尹氏は会談後、「私とバイデン大統領の考え方がほぼすべての部分で一致していると感じた」と述べた。米韓首脳が個人的に信頼関係を築いていくことも北東アジア地域の安保にとって重要だ。
尹氏は日韓改善へ行動を
バイデン氏は何よりも地域安保のため日韓関係改善を求めている。尹氏は、文氏のように歴史認識問題を日韓関係の妨げにしてはならない。待ったなしの安保危機を克服するため、尹氏の関係改善に向けた行動に期待したい。