東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出について、原子力規制委員会が必要な設備などを盛り込んだ東電の計画を妥当とした審査書案を了承した。事実上の審査合格だ。
ただ、放出に当たっては地元漁業者らの理解が必要となる。原発の円滑な廃炉と福島の復興に向け、政府と東電は風評被害への懸念払拭(ふっしょく)を急ぐべきだ。
規制委が妥当と判断
福島第1原発では、1日当たり130㌧(2021年度)の放射能汚染水が発生。東電は、浄化後の処理水を保管するタンクが23年夏~秋ごろに満杯になる見通しを示している。
原発の敷地面積約350万平方㍍のうち、施設設置などに活用できる約280万平方㍍のほとんどは既に施設が設けられているか、用途が決まっている。タンクをこれ以上増設することは難しく、政府は昨年4月、来春から海洋放出を始める方針を示した。
東電は昨年12月、規制委に処理水の海洋放出計画の認可を申請。計画では、トリチウム濃度が国の基準値の40分の1未満になるよう海水で希釈し、新たに設置する海底トンネルを通じて約1㌔沖合に放出する。
放射線影響評価も実施し、海洋放出による被曝(ひばく)線量は0・03~0・4マイクロシーベルト程度と見積もった。「年間50マイクロシーベルトを大幅に下回る」という規制委の要求を満たし、人体への影響がほとんどないことを確認している。
審査書案は、放出計画について「廃炉に必要な施設のエリアが確保でき、将来的なリスク低減が図られる」と評価。設備面のほか、放出前の処理水の放射能濃度分析や、異常時の緊急停止手順など運用面も妥当と判断した。
東電は正式に認可され次第、地元自治体の了承を得た上でトンネルなど本体工事に着手し、23年春までに放出に必要な設備を完成させる方針だ。ただ、地元漁業者らの風評被害への懸念は根強い。
経済産業省は昨年11月、風評被害対策として300億円の基金新設を発表。風評被害で県産水産物の値段が下がった場合、基金で水産物を一時買い取るなどの措置を取る。
漁業者の生活を守るにはやむを得ないが、風評に科学的な根拠はない。本来であれば、政府や東電が海洋放出の安全性について消費者に十分に説明し、風評をなくしていくことが望ましいはずだ。
復興庁による今年1月のインターネット調査では、処理水を大幅に希釈した上で海洋放出する方針であることを知っていたのは4割強にすぎなかった。政府や東電は情報発信を強化する必要がある。
一人ひとりが安全性認識
東電は処理水でヒラメやアワビなどを飼育し、問題がないかを調査・公表する準備を進めているという。漁業者の不安解消に向け、効果的な取り組みが求められる。
原発事故から10年以上が経過した。これ以上、福島の人たちを風評被害で苦しめることがあってはならない。私たち一人ひとりが海洋放出の安全性をきちんと認識する必要がある。