
新型コロナウイルスの水際対策で、政府は外国人観光客の受け入れを6月以降、段階的に再開する方向で検討している。円安が進む中、インバウンドの再開は経済回復の大きな起爆剤となりうる。政府は防疫体制を見直し、速やかに海外からの観光客受け入れを再開すべきだ。
入国者数2万人を検討
岸田文雄首相はロンドンでの講演で「6月には他の先進7カ国(G7)並みに円滑な入国が可能になるよう水際対策を緩和する」と表明した。これを受けて、政府は6月から1日当たりの入国者数の上限を今の1万人から2万人に引き上げることを検討している。今後の感染状況を慎重に見極めた上で、最終的な対応を決めるという。
しかし、2万人という条件を設けること自体、岸田首相が言明した「G7並み」からは遠いものである。コロナ前の2019年には1日平均約14万人が入国していた。これと比べれば申し訳程度のものである。
一つには防疫体制が整っていないことがその理由とみられる。しかし、入国者すべてに抗体検査を行う現行の体制にどれだけ必然性があるのか。出国前にPCR検査を行った人が入国する際に再び抗体検査を行うなど、科学的な根拠が疑われる。
海外から「鎖国政策」と批判されるほど、日本の水際対策は厳重かつ煩雑だ。厳重に行えば安心が得られ、海外からの感染に極端に敏感な国民感情への慰めとなる。こうした過剰な配慮がありはしないか。受け入れ対象国やワクチン接種状況などを考慮して、一律的な対応を改める必要がある。
2万人という上限を設けること以上に科学的根拠が乏しいのは、観光客を受け入れないことである。ビジネス関係者や留学生・技能実習生と観光客との間に疫学上の違いはない。あるのは外国人の入国者が増えることへの漠然とした不安である。
政府は曖昧な国民感情に迎合するのではなく、科学的で広い見地から、観光客受け入れを強力に進めていくべきである。
円安が進む中、インバウンドは経済の本格的回復の起爆剤となりうる。旅行会社や航空会社など観光業界は、再開を強く望んでいる。観光大国フランスなどの状況も参考になる。
日本政策投資銀行と日本交通公社が昨年10月にオンラインで実施したアンケートで、「次に旅行したい海外の国」で日本が1位となった。食の魅力や安全がその理由だが、日本は観光地として潜在的な魅力を保持している。だが、このまま「観光鎖国」を続ければ、これからの到来が予想される世界的な観光ブームに乗り遅れることになる。
斉藤鉄夫国土交通相は、試験的な少人数の訪日ツアーを5月中に実施することを明らかにした。いかにも恐る恐る再開するという印象をぬぐえない。状況を見極めながらも素早い対応が求められる。
「おもてなし」の神髄を
受け入れる観光地の側も、これまで「おもてなし」を世界にアピールしてきたことを思い出すべきだ。
感染対策と観光産業の両立で「おもてなし」の神髄を示すべきである。