フィリピン大統領選は、フェルディナンド・マルコス元上院議員が他の候補に大差で勝利した。マルコス氏はドゥテルテ政権によるインフラ整備や麻薬対策などの政策の継承を訴え、支持を集めた。中国と領有権を争う南シナ海の問題は、対話で解決する方針だ。対中融和姿勢が強まることが懸念される。
比大統領選で支持広げる
マルコス氏は、独裁政治を20年以上続けた故マルコス元大統領の長男。弾圧や汚職など負のイメージで語られたマルコス一家の復権が決定的になる。
選挙期間中はインターネット交流サイト(SNS)を活用し、父の時代を知らない若年層を中心に支持を広げた。主要な候補者討論会を軒並み欠席し、政策論争を避ける一方、テレビ番組で料理する姿を披露するなど親しみやすさをアピールした。
マルコス氏はドゥテルテ政権の政策継承を明言し、副大統領選ではドゥテルテ大統領の長女、サラ・ドゥテルテ氏が当選を決めた。しかしドゥテルテ大統領が進めた「麻薬(撲滅)戦争」では、大勢が裁判を経ず殺害されるなど人権軽視の姿勢が目立った。殺害された人数は警察発表で7800人余。人権団体は「実際はその3倍を超え、無実の者もいる」と主張する。
治安が回復した面はあったとしても、容疑者の超法規的殺害は許されるものではない。マルコス氏は法にのっとった取り締まりを進める必要がある。
気掛かりなのは、マルコス氏が中国と領有権を争う南シナ海問題をめぐって、中国の主張を否定した2016年7月の仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の判決を重視せず、対話で打開しようとしていることだ。このフィリピンが提訴した裁判の判決は、中国が南シナ海をほぼ囲むように設定する独自の境界線「九段線」について、域内の資源に「歴史的権利を主張する法的根拠はない」との判断を下した。中国が造成する人工島に関しても、排他的経済水域(EEZ)は生じないとしている。
中国は判決を「紙くず」と呼んで無視しているが、中国による南シナ海の軍事拠点化は明らかに国際法に違反するものだ。だが、ドゥテルテ大統領は判決を事実上棚上げするなど親中的な姿勢を示す一方、一時は「訪問米軍に関する地位協定(VFA)」の破棄を打ち出すなど米国との同盟を軽視した。
中国の力による一方的な現状変更に断固とした姿勢で臨まなければ、南シナ海情勢が不安定化し、地域の安全保障が脅かされかねない。マルコス氏には米国との連携を深め、国際法をないがしろにする中国に対抗するなど「法の支配」を重んじる政策を進めてほしい。
日本は防衛協力強化を
マルコス氏の勝利を受け、松野博一官房長官は「地域の重要な戦略的パートナーであるフィリピンとの関係を一層強化していく」と述べた。今年4月には、フィリピンとの初の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)も行われた。東シナ海では中国が沖縄県・尖閣諸島の領有権を一方的に主張し、中国海警船が尖閣周辺で領海侵入を繰り返している。日本はフィリピンとの防衛協力を強化すべきだ。