ロシアのプーチン大統領は旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日の9日に演説し、ウクライナ侵略についてクリミア半島への「侵略」や隣国の核保有を阻止する先制攻撃だと正当化した。
しかし、他国を蹂躙(じゅうりん)し無辜(むこ)の民間人を虐殺しているのはロシアの方である。侵略を正当化することは断じて容認できない。
ウクライナの抵抗で苦戦
プーチン氏は「米国やその同盟国が背後に付いたネオナチとの衝突は、避けられないものになっていた」と強調。ウクライナ侵略は「時宜にかなった正しい決断だった」と述べた。
これまでもプーチン氏は、ウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」と決め付け、ウクライナの「非ナチ化」を侵略の目的に掲げてきた。これに対し、ゼレンスキー大統領は「(独ソ戦で)800万の命を失ったウクライナ人がどうしてナチスを支持するのか」と反論している。ネオナチとレッテル貼りすることはウクライナへの冒涜(ぼうとく)にほかならない。
また、プーチン氏は「クリミアを含むわれわれの歴史的な土地に侵攻する準備が公然と進められていた」などと主張した。だがクリミアはウクライナの領土であり、2014年2月に親露派のヤヌコビッチ政権が崩壊した後に侵略し、一方的に併合したのはロシアの方である。
さらにロシアはウクライナ東部に軍事介入し、二つの「人民共和国」を樹立した。東部では今回の侵略直前の時点で、ウクライナ政府軍と親露派武装勢力の双方に住民を含む計1万4000人以上が亡くなっている。
ロシアは8年間にわたってウクライナの主権と領土を侵害し続けてきた。今回の侵略はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を阻止するために強行された暴挙であり、ウクライナの主権を認めようとしないばかりか、子供を含む多くの民間人を虐殺している。その上、プーチン氏が演説で侵略を正当化し、ウクライナの国民感情を深く傷つけたことは到底容認できるものではない。
もっとも、ロシアはウクライナ軍の頑強な抵抗で苦戦している。当初はすぐに陥落すると言われていた首都キーウ(キエフ)の攻略に失敗し、現在は東部のドンバス地方と南部一帯の制圧を狙っている。
ゼレンスキー氏は、ロシアの対独戦勝記念日に合わせて発表した声明で「一片の土地、一片の歴史であっても与えるつもりはない」と述べ、領土面では一切譲歩しない姿勢を強調した。力による一方的な現状変更は許されない。国際社会はウクライナへの支援を強化すべきだ。
ロシアへの圧力強めよ
岸田文雄首相は、ロシアへの追加制裁として同国産石油の輸入を段階的に禁止すると表明した。先進7カ国(G7)の結束を重視した判断だが、ロシア極東の資源開発事業の権益は維持する考えだ。
これではロシアに足元を見られないか。国内経済への影響は十分に考慮する必要があるが、中国との間に沖縄県・尖閣諸島問題を抱える日本にとって、ウクライナ危機は決して人ごとではない。ロシアへの圧力をさらに強める必要がある。