政府は6・2兆円の国費を使う物価高騰への総合緊急対策を決定した。ロシアのウクライナ侵攻などの影響で石油や原材料価格の高騰が続き、ガソリンをはじめ生活必需品の値上げが相次いでいるからだ。
賃上げの伸び以上の物価上昇で実質賃金は目減りで景気にも悪影響が懸念される。政府による対策は当然だが、物価高騰に拍車を掛ける円安が止まらないでいる。日銀の大規模緩和策の修正が必要である。
金利差容認で円安に拍車
政府が決定した主な物価高対策は、具体的には石油元売りへの補助金を現在の1㍑当たり25円から35円に引き上げ、ガソリンの全国平均価格の抑制目標を現在の172円から168円に下げる。また、低所得者の子育て世帯を対象に児童1人当たり5万円を給付する。
燃料価格を抑制する補助金の大幅拡充については、価格形成をゆがめ、制度終了時の混乱を大きくしかねないとの懸念もあるが、ウクライナ危機や円安が止まらず、原油高の出口が見通せない現状ではやむを得まい。というより、利用する事業者や漁業関係者にとって、燃料価格の高騰は死活問題であり、対策は必要不可欠であろう。
中小企業対策や生活困窮者支援も、岸田文雄首相が表明したように「直ちに実行に移し、コロナ禍からの経済社会活動の回復を確かなものとしていく」ことが重要である。
問題は、こうした政府による政策の意図に対し、日銀の対応が逆行していることである。日銀は4月28日の金融政策決定会合で大規模金融緩和策の維持を決定したが、これを受け、円相場は一時1㌦=131円に急落し、さらに円安に進んだ。
今回だけではない。最近の円安は、日銀が決定会合で大規模緩和を維持するたびに進み、日銀の決定が拍車を掛ける形になっている。米国が利上げに動き、さらに上げようとする状況の中で、日銀はその都度、金利差拡大を容認する姿勢を示すわけだから、市場で円売り圧力が強まるのは当然である。
日銀が長期金利の上昇を抑えようと、国債を特定の利回りで無制限に買い入れる「指し値オペ」も同様で、結果的に円安を促すものになっている。
黒田東彦総裁は最近、「過度に急激な変動はマイナスに作用することも考慮する必要がある」と述べ、経済や物価に与える影響を注視する考えを示すようになったが、基本姿勢は変わっていない。
3月の短観でも企業の景況感の悪化が示されたこともあろうし、大規模緩和を修正すれば、金利上昇を招いて大量に抱える国債の価格下落(評価損)や政府の国債利払い負担が増えることへの懸念もあろう。
潜在成長率を高めよ
しかし、重要なのは現在の円安の流れを止めることであり、そのために大規模緩和を修正し政策スタンスの変更を明確にすることである。量的緩和の縮小を徐々に進め、金利の緩やかな上昇に努める。そうすることで、マイナス金利にあえぐ金融機関の融資意欲を向上させて企業の投資を促進し、日本経済の潜在成長率を高めたい。