
岸田文雄首相が、韓国の尹錫悦次期大統領が派遣した「政策協議代表団」と会談した。
国際秩序を脅かす中国やロシア、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射などの挑発を強める北朝鮮に対応する上で、冷え込んだ日韓関係の改善は喫緊の課題だ。
懸案解決へ行動促す
首相は会談の中で、両国関係改善が急務だとの認識を示すとともに、悪化の原因となった元徴用工や慰安婦の問題に関し、解決に向けた韓国の具体的な行動を求めた。団長の鄭鎮碩国会副議長は元徴用工問題について「(日本と)厳しい認識を共有している」と述べ、解決に努力する姿勢を示した。
この問題をめぐっては、韓国最高裁が2018年10月、日本企業に賠償を命じる判決を確定させた。1965年の国交正常化の際に結ばれた請求権協定は、日本が経済協力資金を支払う代わりに、両国と国民間の請求権問題が「完全かつ最終的に解決された」と明記しており、判決は日韓関係の根幹を否定するものとなった。
慰安婦問題に関しても、2015年末に「最終的かつ不可逆的な解決」で一致したが、韓国は18年11月、両国間の合意に基づいて設立され、元慰安婦らの支援事業を行ってきた「和解・癒やし財団」の解散を決定。首相が安倍政権の外相時代に結んだ合意を覆した。
18年12月には韓国駆逐艦が自衛隊機に火器管制レーダーを照射する事案も生じた。照射はミサイル発射の前提で、敵対行為と受け取られても仕方がない。両国関係を悪化させた韓国の文在寅政権の責任は重い。
首相と尹氏は尹氏の大統領就任後、できる限り早い時期に対面会談を行うことを目指している。北朝鮮や中国、ロシアといった専制主義国家の動きが活発化しており、日米韓の一体性確保が重要だと判断しているとみていい。
朝鮮半島情勢では、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が今年1月、核実験とICBM試射の再開を指示し、3月にはICBM「火星17」を発射。このミサイルは北海道西方約150㌔の日本海の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。
正恩氏は「朝鮮人民革命軍」創設90年を記念する軍事パレードの演説で、核兵器の先制使用も辞さないとして日米韓を威嚇した。尹氏は北朝鮮に厳しい姿勢を示しており、一連の動きには緊張を高め、尹氏を牽制(けんせい)する狙いもあろう。
こうした中、日韓間の亀裂がこれ以上深まれば北朝鮮の思うつぼである。自由主義陣営に属する日韓の足並みが乱れれば、中国による台湾侵攻の可能性も高まろう。両国は関係改善を急がなければならない。
多数野党の理解を得よ
尹氏は日本との関係を重視しているが、韓国国会では革新系の現与党で尹次期政権発足後は野党となる「共に民主党」が多数を占める。元徴用工問題などで日本に譲歩しようとしても、共に民主党が容認しないことも十分に考えられる。
いかに対日関係改善への理解を得ていくか、尹氏の手腕が問われる。