北海道旭川市で昨年3月に中学2年の女子生徒が凍死した問題で、市教育委員会の第三者委員会がいじめがあったと認定した。
被害の訴えから認定まで3年近くかかった。学校や市教委が早い時点で適切な対応を取っていれば女子生徒を救えたはずだ。最悪の事態を招いたことが無念でならない。
本人に事情を聞かず
第三者委は、女子生徒が7人の生徒から性的な動画を要求されるなど6項目のいじめを受けたと認定した。女子生徒は中学入学直後の2019年4月以降、こうしたいじめを受け、6月には川に飛び込んで学校に「死にたい」と電話で訴えたという。
それでも学校側は本人に事情を聞かなかった。女子生徒は同年8月、市内の別の中学校に転校したが、不登校が続き、21年3月に公園で凍死しているのが見つかった。
女子生徒は再三にわたって助けを求めている。しかし、学校や市教委は本格的な調査をしようとしなかった。それどころか、転校後に学校側はいじめを完全に否定するようになった。
道教委は19年10月、20年1月の2度にわたって市教委に「いじめの疑いがある」として事実確認をするように指導した。それでも、市教委は学校側の報告をうのみにして調査を行わなかった。放置された女子生徒の胸中は察するに余りある。
13年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」では、深刻ないじめを重大事態と定め、教委や学校に調査組織の設置を義務付けている。だが市教委が重大事態に当たると判断したのは、女子生徒の死後の21年4月だ。あまりにも遅い対応である。
重大事態かどうかについては、学校側と被害者側で判断が食い違うことが多い。被害生徒の訴えが認められないのは、学校側が「本人の特性」「家庭の問題」などと先入観を持って調査している場合があるとの指摘もある。
いじめ防止対策推進法は、大津市の市立中学2年の男子生徒が11年10月に自殺したことを契機に制定された。しかし、いじめによる自殺は後を絶たない。いじめ自殺の遺族らを支援する活動を続けてきた男子生徒の父親は「法律はあっても子供を守れておらず、怒りと情けなさを感じる」と述べている。
学校や教委が資料を隠すなどのケースもあるという。こうした教育現場の事なかれ主義は、大津のいじめ自殺のころから変わっていない。
道徳教育を充実させよ
子供政策の司令塔として来年4月の発足を目指す「こども家庭庁」の設置法案が今国会で審議入りした。こども家庭庁はいじめ防止にも取り組むとしている。
いじめをなくすには、事なかれ主義や教委と学校の身内意識などを徹底的に排除しなければならない。こども家庭庁には、文部科学省と連携し、道徳教育も充実もさせることを期待したい。