日本最大の労働組合の全国中央組織・連合の芳野友子会長が自民党の会合に出席するなど、労働界でこれまでの支持政党を超えた連携を模索する動きが広がっている。
労組側にとって労働条件の改善を目指す政策の実現が優先されるはずであり、過去に「反自民」を標榜(ひょうぼう)した政治目標にとらわれず是々非々の議論による関係構築を評価したい。
芳野会長が党会合に出席
芳野氏は自民党側の招きで、同党の人生100年時代戦略本部の会合に出席し、フリーランスの雇用問題や男女の賃金格差是正、最低賃金引き上げなど連合の政策実現に協力を求めた。自民党は3月に行われた党大会で「連合など労働組合との政策懇談を積極的に進める」と盛り込んだ運動方針を決定しており、対話に意欲を示している。
連合は1989年に総評と同盟が合流して結成されたナショナルセンターで「反自民非共産」の枠組みの政治勢力を支援して、1996年の民主党結党をサポートした。しかし同党に集まった勢力は分裂と党名変更を繰り返し、現在は立憲民主党と国民民主党に割れている。しかも野党第1党の立民が共産党と野党共闘を深めて、枠組みの「非共産」が抜け落ちた。
共産党との野党共闘には連合前会長の神津里季生氏、芳野氏とも強く批判し、芳野氏は立民と国民が一つになるよう要請したが実現しそうにない。ことに立民は共産党の協力なしで選挙を戦う自信をなくしている。
政治勢力を「反自民非共産」に結集する枠組みが崩れた以上、「反自民」と「非共産」のどちらに比重を置くか。企業と話し合う連合側にとっては「非共産」が重要だ。共産は党綱領で「異常な対米従属と大企業・財界の横暴な支配の打破」など労働運動を含めたあらゆる運動を階級闘争的に捉えており、連合の労使協調路線とは相いれないからだ。
昨年、連合の有力労組である全トヨタ労働組合連合会(全ト)が立民離れの動きを見せた。衆院選に向かって共産党が立民との共闘で「政権参加」を訴えるのを尻目に、全トは自民、公明の与党とも政策連携する方針を打ち出し、愛知11区では同労組出身候補の出馬を取りやめ、自民党候補との対決を避けた。
自動車産業は世界的な脱炭素化の流れの中で変革を迫られており、マーケットで生き残れなければ人員整理が起こる。企業に収益をもたらす景気が雇用や賃金を左右する以上、業界は常に産業振興に優れた政策を必要とする。全トの動きは、政治のパイプを野党共闘ではなく、自民につなぐ選択に踏み切ったものだ。
一方、1月の連合の新年会には岸田文雄首相が出席し、3月には自民党の麻生太郎副総裁が芳野氏と会談し労働政策で関係を強化する意向を語った。芳野氏の自民党会合出席はその一環であり、連合が「反自民」を柔軟に見直すサインだ。
労組は与党とも協調を
労組本来の労働条件の向上や政策実現の活動に専念するならば、各党に対して是々非々の関係を持ち、与党とも協調するのは当然である。