香港行政長官選 馬脚現す「中国式民主主義」

5月8日予定の香港行政長官選で、香港政府ナンバー2の政務官だった武断派の李家超(りかちょう)氏の当選が確実視されている。

中国主導の「出来レース」

行政長官選は1500人で構成する選挙委員会のメンバーによる投票で行われる。立候補者はメンバーのうち188人以上の推薦が必要との規定がある中、李氏は半数以上の786人の推薦人を得ている。しかも候補者は李氏ただ1人。北京が、容赦のない民主化運動弾圧を指導した李氏への候補一本化を図ったからだ。これでは選挙とは名ばかりで、北京主導の「出来レース」でしかない。

強権政治との批判に対し、中国は中国型の民主主義があると言い募る。しかし「中国式民主主義」とは結局、共産党の一党支配に他ならない。

古代ギリシャにルーツを持ち、17、18世紀の市民革命を経て近代国家の政治原理として定着した民主主義は、国民の基本的人権が保障され、法の支配や権力の分立などの要件を満たす必要がある。その点、中国の政治実体は法の上に共産党が存在し、チベット・ウイグル問題を見ても明らかなように強権で国民の基本的人権を蹂躙(じゅうりん)している。

何より民主主義は、言論・集会の自由があってこそ成立するものだ。個々人の信条や意見を自由に表明できないと、一部の政治指導者の意見や政策が表に出るだけの閉塞(へいそく)社会に堕する。言論機関は「共産党の舌」との位置付けでしかない中国で、言論・集会の自由は遠い。

1997年に香港が英国から返還された際、中国は香港に50年間は外交・防衛を除く分野での高度な自治を保障する「一国二制度」を国際公約した。だが、半世紀どころか四半世紀もたたぬ間に反故(ほご)にされた。中国政府は2年前、香港国家安全維持法(国安法)を制定し中国式強権統治を香港に移殖した。返還当時は「中国の香港化」が喧伝(けんでん)されもしたが、国安法制定で「香港の中国化」が決定的となった。

警察官僚出身の李氏が共産党から抜擢(ばってき)されたのも、香港を強権で統治するために使い勝手がいいと判断したからに他ならない。治安対策のリーダーだった李氏は、民主活動家の一斉逮捕だけでなく、共産党に歯に衣(きぬ)着せぬ批判を続けた香港紙・蘋果日報(リンゴ日報)を銀行口座凍結などの強権行使で廃刊に追い込んだ。創業者の黎智英氏は未(いま)だ投獄されたままだ。

かつて国家の干渉をなるべく排除した英国のレッセフェール(自由放任主義)をベースに繁栄した香港だったが、最大の遺産だった「自由」を失った将来が危うい。李長官の誕生で、さらに厳しく管理された「警察都市」に変わってしまうことが懸念されるからだ。

東アに新たな暗雲も

香港の変質は香港だけの問題では収まらない。元来「一国二制度」は、中国が台湾を取り込むための方便として鄧小平が打ち出したものだった。「一国二制度」の反故は、中国にとって平和裏に台湾を併合する手段を失うことを意味する。「100万㌦の夜景」と言われた香港の光が消え失せることは、東アジアに新たな暗雲を呼び込むことにもつながりかねない。

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