
防衛費の増額を求める声が、各方面から高まっている。自民党の安倍晋三元首相は安倍派の会合で、国内総生産(GDP)比2%を目標に、わが国の防衛費を引き上げるべきだとの認識を示した。
また年末に予定される国家安全保障戦略の改定に向け、自民党の安全保障調査会は政府への政策提言の取り纏(まと)め作業を急いでいるが、その原案では、防衛費は5年をめどにGDP比2%以上への増額を目指すよう要求する方針と伝えられている。
GDP比はG7で最低
わが国の防衛費は過去10年間増額が図られており、今年度予算では過去最大の5兆4005億円が計上された。しかし予算の内訳を見ると、自衛隊員の人件・糧食費や過去に購入契約した防衛装備品の後払い経費(後年度負担額)など義務的性質を有する経費が全体の8割を占めている。戦闘機や護衛艦など主要装備品の新規取得のための予算は非常に限られている。
また防衛費のGDPに占める割合を見ると、令和3年度補正予算と4年度当初予算を合わせても1・09%に留まっている。これを諸外国と比べると、先進7カ国(G7)諸国の中で最低で、オーストラリア(2・1%)や韓国(2・6%)よりも低い状況にある。一方、中国の国防費は日本の4倍。過去30年間で42倍に増えている。
安倍元首相や自民党の安全保障調査会が、GDP比2%を防衛費の増額目標に掲げるのは、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が国防費のGDP比2%実現で合意しており、自由主義陣営の一翼を担う日本もせめてNATO諸国並みの防衛努力を果たすべきだとの趣旨によるものである。
昨年の衆院選における自民党の公約でも「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」方針が盛り込まれた。日本と比較されることの多いドイツは、これまで国防費を抑制してきたが、ロシアによるウクライナ侵攻の直後にGDP比2%へ引き上げる方針を打ち出している。
もとより一国の防衛は、その国力および時々の国際情勢や想定される脅威の大小によってその内容や規模が決せられるべきで、防衛費の額も単純に他国を真似(まね)たり、特定の数値に縛られてよいものではない。しかし、これまで日本の防衛費は長きにわたってGDP比1%以内に収まるよう政治的な配慮が加えられ、防衛力整備のための予算が抑え込まれてきた経緯がある。
そのため、現在の予算額ではいまの防衛力を維持することも難しくなっている。あるべきGDP比は具体的な防衛力整備計画に即して決せられるにせよ、いまや防衛費の増額は不可避な状況にある。
防衛力の早急な強化を
北朝鮮や中国の軍事的脅威は年々高まり、ウクライナ侵攻を機に北方ロシアの脅威も増している。こうした国際情勢に対処するには、現在の防衛力の早急な強化が必要である。また新たな国家安全障戦略では、敵基地攻撃能力の保持が認められる可能性も高い。自衛隊が新たな任務や課題を適切に遂行し得るためにも、大幅な防衛費の増額は必要不可欠な措置である。