
ロシアによるウクライナ侵略でエネルギー価格が高騰し、格安で電気を提供してきた新電力各社の採算が悪化している。帝国データバンクによると、2021年4月に営業が確認できた新電力約700社のうち、約4%の31社が倒産や廃業、事業撤退に追い込まれた。電力小売り自由化により参入が相次いだ新電力各社は大きな岐路に立たされている。
倒産や撤退が相次ぐ
新電力は自前で発電設備を持たない所が多く、発電会社との個別契約や日本卸電力取引所(JEPX)からの購入などで電気を調達している。しかし、原油やガス価格の上昇につれて卸価格も高騰している。
大手に比べ格安な料金を売りにしてきた新電力は値上げに踏み切ることができず、採算が急激に悪化している。中でも格安な事業者向けでは、調達価格が販売価格を上回る「逆ざや」に陥っている。
新電力が倒産や撤退をしても、契約している家庭や企業の電気が止まるわけではない。ただ、期限までに契約を他社に切り替えなければならない。
エネルギー価格の高止まりは長期化する恐れがあり、新電力の倒産などは今後も発生するとみられる。政府は中小企業が融資を受けやすくなる制度の対象に新電力を加えたが、経営監視を強化して需要家を保護する必要もある。新電力には自前の発電設備を持つなどの経営努力が求められる。
企業である以上、利益を追求するのは当然だとしても、新電力を経営するには安定供給への強い使命感や資金調達力も欠かせない。政府は安易な事業参入を防止するための制度づくりを急ぐべきだ。
もっとも、エネルギー価格高騰は大手電力会社にも大きな影響を与えている。新電力から料金値上げなどを打診された法人が大手への契約切り替えを検討しても応じきれず、法人向け電力プランの契約受付を一部停止する動きが相次いでいる。
切り替えに対応するには、取引価格が高止まりしている卸電力市場から供給力を追加調達する必要がある。どの電力小売り事業者とも契約が成立しない場合、大手による「最終保障供給」という仕組みがあり、料金は割高となるが、現状ではこの料金よりも高いプランしか提示できないという。
エネルギー価格が高騰する中、政府はロシアに対する制裁として石炭の段階的輸入禁止に踏み切った。もちろん制裁はしなければならないが、電力供給が綱渡りになるとの懸念が拡大している。一方、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今月、地球温暖化抑制のため、化石燃料依存からの脱却が欠かせないと強調する第3作業部会の報告書を公表しており、火力発電への依存度低下も求められる。
安定供給へ原発活用を
政府は今年3月、東京電力や東北電力管内で停電の恐れがあるとして、初の電力需給逼迫警報を発令した。電力の安定供給には、温室効果ガスを排出せず、再生可能エネルギーのように発電量が天候にも左右されない原発を活用する必要がある。