ロシア国防省は、海軍太平洋艦隊の潜水艦2隻が巡航ミサイル「カリブル」の発射演習を行い、日本海上の標的に命中したと発表した。タス通信はミサイルは日本海海域から発射されたと報じた。
ウクライナ侵略を受けて日本がロシアに対する制裁を科す中、日本周辺でロシア軍の動きが活発化している。十分な警戒を要する。
北方領土で演習繰り返す
ミサイルを発射した潜水艦2隻は日本海での演習に参加していた。日本海では現在、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」を中心とする空母打撃群が、自衛隊と合同訓練を実施している。訓練は、きょうで故金日成主席生誕110年を迎え、核実験再開などが懸念される北朝鮮を念頭に置いたものだが、ロシアのミサイル発射は日米両国を牽制(けんせい)したとみていい。
ロシアは、制裁を強化する日本への反発を強めている。カリブルはウクライナでも使用されており、日本海での発射演習は日本に対する脅しと取ることもできよう。
日本周辺ではロシア軍の動きが目立っている。3月にはロシア海軍の艦艇が津軽海峡や宗谷海峡を通過した。このうち15~16日に津軽海峡を航行した戦車揚陸艦の甲板には10台以上の軍用車両が積載され、シベリア鉄道などでウクライナ戦線に運ばれたもようだ。
ウクライナの首都キーウ近郊ブチャでの多数の民間人殺害への関与が疑われている「第64自動車化狙撃旅団」は、ロシア極東ハバロフスク近郊が本来の拠点だ。艦艇が日本近海を通過したのは、極東の部隊をウクライナ方面に移動させるとともに軍事力を誇示する狙いがあろう。
ウクライナ侵略以降、日本固有の領土である北方領土でロシア軍の演習が繰り返し行われていることも容認できない。ロシアは北方領土を重視し、国後島と択捉島には「第18機関銃・砲兵師団」(3500人規模)が駐留し、戦車や装甲車、火砲などが配備されている。
気掛かりなのは、ロシアの左派政党「公正ロシア」のミロノフ党首が「ロシアは北海道にすべての権利を有している」との見解を表明したことだ。発言の根拠は不明だが、旧ソ連の独裁者スターリンは第2次世界大戦の終戦前後、樺太(サハリン)南部やクリール諸島(北方領土と千島列島)に加え、北海道北部の占領を画策した歴史的事実がある。
極東地域を担当する東部軍管区には最新の装備が配備され、戦力が強化されている。オホーツク海では弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)が活動しており、北方領土に配備されている地対艦ミサイルは北海道東部まで射程に入れる。
自主防衛力向上を急げ
ロシアは北方領土を80年近くにわたって不法占拠している。さらに北海道への野心を抱いているとすれば、到底見過ごすことはできない。
ウクライナ情勢を見ても、ロシアのプーチン政権は何をしでかすか分からない。日本は米国との同盟の強化に努めるとともに、防衛費の大幅な増額で自主防衛力の向上を急ぐべきだ。