
岸田文雄首相は、ロシアによる侵攻が続くウクライナで民間人の遺体が多数見つかったことを受け、石炭の輸入禁止や最大手銀行ズベルバンクの資産凍結など5項目の追加経済制裁を発表した。
首相は「断じて許されない戦争犯罪だ。非道な行為の責任を厳しく問うていかなくてはならない」と非難した。制裁でロシア経済に打撃を与え、プーチン政権を弱体化させて戦争継続を困難にさせるべきだ。
集団殺害の証拠隠滅も
日本は発電に用いる一般炭の13%、製鉄などに使う原料炭の8%をロシア産に依存している。別の調達先の確保を急ぐ必要がある。
ウクライナにおけるロシア軍の蛮行は目に余る。首都キーウ近郊のブチャで民間人数百人の遺体が発見されたほか、キーウから約60㌔離れたボロディアンカでは、集合住宅の地下室に逃れた人々が空爆で生き埋めになるなどブチャ以上の惨状を呈しているという。
ロシア軍はキーウ制圧に失敗したことを受け、ウクライナの南部や東部に戦力を集めて「戦果」獲得を急ぐ姿勢を鮮明にしている。東部ではドネツク州クラマトルスクの鉄道駅が弾道ミサイルで攻撃され、子供を含む多くの避難民が死亡するなど民間人への攻撃も続いている。
包囲攻撃が続く南東部の要衝マリウポリでは、既に5000人が死亡したと推計されているが、数万人に上るとの見方もある。市内に残る住民の大半は薬や水もなく、厳しい状況に置かれている。
人道上の配慮などは全く見られない。マリウポリ市当局は、ロシア軍が「移動式火葬場を稼働させ、ジェノサイド(集団殺害)の証拠を隠滅しようとしている」と指摘し、そのために退避が阻害されていると主張している。「ユダヤ人絶滅計画」を進めたナチス・ドイツに匹敵する蛮行である。
これは日本人にとって決して人ごとではない。旧ソ連は第2次世界大戦終結直前、当時まだ有効だった日ソ中立条約に違反して対日参戦し、旧満州に侵攻して多くの日本人避難民を虐殺した。日本固有の領土である北方領土は、ソ連と後継国家のロシアによって戦後80年近く不法占拠されている。日本もウクライナと同様にロシアによる主権侵害を受け続けているのだ。
追加制裁に加え、政府は在日ロシア大使館の外交官ら8人の国外追放を発表した。異例のことだが、既に欧州各国ではロシア外交官の退去を求める動きが広がっており、足並みをそろえた形だ。ロシア外務省のザハロワ情報局長は対抗措置を取ると表明した。
日本政府は当初、国外追放に消極的だった。欧米に引っ張られる形で追放に動いたが、本来であれば日本こそが対露非難の先頭に立つべきではないか。
包囲網形成で圧力強化を
国連総会(193カ国)は緊急特別会合で、人権理事会(47カ国)におけるロシアの理事国資格を停止する決議を日米など93カ国の賛成で採択した。
国際社会は対露包囲網を形成し、ロシアへの圧力を強める必要がある。