トップオピニオン社説IPCC報告 原発柱に多角的脱炭素を

IPCC報告 原発柱に多角的脱炭素を

待ったなしの温暖化対策で現実的な対応が求められている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会は、産業革命以前からの気温上昇を1・5度に抑えるには、遅くとも2025年までに世界の温室効果ガス排出量を減少に転じさせる必要があるとする報告書を公表した。

化石燃料脱却の必要強調

8年ぶりとなった報告書は、人為的な温室ガス排出量が10~19年、増加したことを指摘。気温上昇を抑えるには、石炭火力発電など化石燃料依存からの脱却が欠かせないことを初めて明確にした。

太陽光や風力など再生可能エネルギーについては、コストが安くなっていることを指摘。再エネの導入で排出量を30年までに19年の半分に減らす可能性に言及している。

報告書はまた、産業や家庭などの全部門において「急速かつ大幅に温室ガスを減らす必要がある」と強調している。職場や家庭、交通手段や食料の選択などで一人一人の省エネ努力が求められる。

ただわが国の二酸化炭素(CO2)排出を部門別でみると、エネルギーが約4割を占めている。個人の省エネ努力も大切だが、ややもするとそれで順調に削減に向かっているという錯覚に陥りかねない。国全体のエネルギー部門での削減が課題だ。

フランスのマクロン大統領は今年2月、原発を最大14基増設する計画を発表した。4年前には原発への依存を減らすため12基の閉鎖を発表しており、エネルギー政策の大転換である。

フランスではこの冬、原子炉の5分の1以上の稼働が止まるエネルギー危機に遭遇し、石炭火力に頼らざるを得ない状況に直面した。政策の大転換は、不安定な電力供給の解消と温室ガス削減効果を狙ったものだ。

日本は50年までの脱炭素を掲げているが、実現するにはCO2を排出しない原発と再エネを活用する必要がある。生産コストが減ってきている再エネだが、供給の安定性では原発に劣るし、景観その他、環境への負荷がないわけではない。

そういう面でも、原発はエネルギーの安定供給の重要な柱である。再稼働のスピードを上げるとともに、運転40年で廃炉となる原発もあることを考慮し、日本も新増設への政策転換を検討すべきである。

報告書は再エネへの移行だけでなく、CO2を大気中に放出させず回収し地下に貯蔵するCCSなど新技術の有効性にも言及している。CCSは、経済産業省が30年導入を目指して北海道苫小牧市で実証事業を行っている。ただ、貯蔵量はわずかでコスト面などで課題も大きい。技術進歩でこれらの問題が解決できるか、見極めも必要となってくるだろう。

テロ対策に万全を期せ

脱原発を強力に進めてきたドイツが、ロシアのウクライナ侵攻で厳しいエネルギー環境に置かれている。ウクライナ侵攻は世界のエネルギー政策の見直しを迫っているが、ロシア軍による原発の制圧はテロの危険性も改めて示した。わが国も原発テロへの備えを再検証し、対策に万全を期す必要がある。

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