ロシアから侵略を受けているウクライナのゼレンスキー大統領は、国会で憲政史上初となる外国首脳によるオンライン演説を行い、日本の援助とアジアで初めて対露圧力をかけたことに謝意を表明した。自由を守る連帯を強化し、ロシアの蛮行を一日でも早く終わらせたい。
日本の対露圧力を評価
目下、甚大な被害を受けている戦争当事国の首脳演説が実現したのは、国連総会で圧倒的多数で対露非難決議がなされ、衆参両院でも同様の決議が採択されたように、あからさまな侵略戦争を開始したロシアに非があり、今回侵攻した露軍を相手に抗戦しているウクライナは一方的な犠牲者だからである。
ゼレンスキー氏は飛行機で15時間も離れた遠い両国だが、「お互いの自由への思いに差はない」と強調した。両国は自由と民主主義の価値観を共有し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を公約に掲げて大統領選で当選したゼレンスキー氏に対し「ネオナチ」とレッテル貼りしたプーチン露大統領の戦争は、強権統治の中にあるロシア国民からも批判が起きている。
しかし、プーチン政権は国内では表現、報道の自由を弾圧し、同じスラブ民族の兄弟国であるウクライナでは無差別攻撃により、子供を含む一般家庭の民間人を多数殺戮(さつりく)している。
自由を感じる気持ちに距離はないとのゼレンスキー氏の訴えは、日本の人々にも自分たちの日常が破壊されてしまうのと同じ痛みを共有してほしいというアピールでもあろう。たった1人の独善的で頑迷な権力者によって平穏な暮らしが、いとも簡単に破壊されてしまうという教訓である。
ゼレンスキー氏は欧米各国の演説では、防衛上の措置や武器支援を率直に訴えてきたが、国会演説では憲法上の制約がある日本の立場への配慮が示されていた。在日ウクライナ人と共にロシアの侵略に反対する声を上げていることや、政府や自治体、民間からの援助、および国際社会と歩調を合わせる政府の対露制裁を評価したものだ。
また、露軍の悪質な軍事行動の例として、1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所の立ち入り禁止地帯への侵攻や、他の原発施設への攻撃を挙げ、サリンなど化学兵器および生物兵器の使用が危惧されることを指摘した。福島原発事故、地下鉄サリン事件を経験したわが国に、いかに無法な振る舞いかを実感してほしいという思いを込めたものであろう。
避難民の帰郷と復興への期待も表明された。戦後復興を援助できる日が早く訪れることをウクライナを支援する多くの国々と共に願いたい。
侵略予防するツールを
一方、ロシアの侵略を阻止できない国際社会への失望感は否めない。
ゼレンスキー氏は「侵略者に強い注意が必要だ」と警告し、常任理事国ロシアの拒否権で機能しない国連の安全保障理事会の状況などを踏まえ、国連改革などにより侵略を予防するツールをつくるため日本のリーダーシップを期待した。難題であっても、知恵を絞って取り組まなければならない。