自民党が岸田文雄政権発足後初めて党大会を開催した。ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナウイルス感染拡大という前例のない国難に直面している中で、夏の参院選に向けた総決起大会だ。岸田首相は「いかなる事態が起きても、国民生活を守り抜く」覚悟を示したが、政権与党のトップとして具体的な指針を示し責任を果たさなければならない。
結党時の情勢に酷似
首相は演説の冒頭、ロシアのウクライナ侵攻を「暴挙」と非難し、「今こそ欧州のみならず、アジアを含む国際秩序の安定のために力を合わせていこう」と呼び掛けた。1月の施政方針演説では「日露関係全体を国益に資するよう発展させる」といった「新時代リアリズム外交」を打ち出したが、これを修正したのは当然である。
首相はまた、今回の侵攻を「わが事として捉え対応していかねばならない」と語った。国際社会の平和と安定に責任を持つ国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアによる侵攻によって国際秩序が壊された。首相が新たな国際秩序の枠組み形成のため国連改革や安全保障理事会の改革に「全力を挙げる」との決意表明は評価できる。
首相はそのために「政治の安定が不可欠だ」とし、自民、公明の連携により、参院選で勝利しようと訴えた。確かに過去20年間、自公が日本の政治の安定を導いてきた。しかし、安定が国家の安全保障体制の構築に十分寄与できたかは疑問だ。
注目すべきは1955年の自民党結党時と今日の国際情勢が酷似している点である。自民党は「党の使命」(55年)の中で、国際共産主義勢力の目標たる「世界制圧政策には毫も後退なく、特にわが国に対する浸透工作は、社会主義勢力をも含めた広範な反米統一戦線の結成を目ざし、いよいよ巧妙となりつつある」とし、当時のソ連や中国および、朝鮮戦争を引き起こした北朝鮮に対する警戒心を露(あら)わにしていた。
現在も、ロシアのウクライナ侵攻、中国による一方的な現状変更の試み、北朝鮮の相次ぐミサイル発射という事態に直面している。結党時の自民党は、その危機を克服するため「現行憲法の自主的改正」の方針を示した。しかし、首相の演説や茂木敏充幹事長の党情報告からはその考えや覚悟は伝わってこなかった。
自民党は昨年、憲法改正推進本部を憲法改正実現本部に改称し全国で対話集会を開催することにした。しかし、第1回の集会は今年2月に入ってからで改憲世論のうねりを起こしているとは言い難い。今回採択された運動方針は「憲法審査会を安定的に開催し、積極的に議論する」という程度で、現状はオンライン審議が合憲か否かの議論にかなりの時間を割いている。
「変化」の中身を注視
自民党は国家安全保障戦略の改定を検討している安保調査会だけに委ねるのでなく、国会の外務、安全保障といった委員会でも、敵基地攻撃論や核共有の議論の先頭に立つべきだ。自民党がどう「変わった」のか。国民はその中身を注視していることを忘れてはならない。