ウクライナに軍事侵攻したロシアは停戦の条件として「非武装中立」を要求している。侵略して武装解除を突き付ける国際法違反に輪を掛けた横暴な要求だが、ロシアの前身である旧ソ連がわが国に対して中立化工作を行い、またソ連と親密な関係にあった旧社会党も非武装中立政策を掲げただけに、決して他人事(ひとごと)ではない。
ソ連が社会党を支援
米下院で証言したロシア通のバーンズ中央情報局(CIA)長官は、ウクライナ侵攻を開始したプーチン露大統領について「深い信念に基づいてウクライナを支配しようと決断している」と指摘した。
プーチン氏はソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と述べており、「信念」とは東西冷戦時代のソ連の安全保障政策への回帰である可能性が懸念される。ロシアはウクライナとの停戦協議で、非武装化と北大西洋条約機構(NATO)に加盟しない中立化を要求。プーチン氏はロシアの今回の軍事侵攻の目的は隣接するウクライナの非武装中立化だと述べている。
他国を侵略して意のままの政策を押しつけることは、度を超えた主権侵害であり、断固として許せない行為である。さらなる国際社会の結束によって蛮行を阻止しなければならない。
見過ごせないのは、ロシアが海を隔てているとはいえわが国の隣国であり、ソ連時代から北方領土を不法占拠しており、かつてソ連は日米安保条約を破棄せしめる「中立化」に向けて対日工作をしたことだ。プーチン政権のウクライナ侵攻や停戦条件は、わが国に無関係とみてはならないだろう。
ソ連は、戦後長らく野党第1党にあった社会党に秘密資金援助をしており、「非武装中立」を政策の中枢に掲げて日米安保条約や自衛隊に反対した同党の運動を支援した。
もともと「非武装中立」は、第2次世界大戦で無条件降伏し独立国の地位を失い、占領軍の下で制定された憲法9条で非武装化された敗戦国日本に残された選択肢の一つだった。
だが、朝鮮戦争勃発によって欧州の東西冷戦は極東で砲火が飛び交う戦争となり、日本を占領統治した米国の対日政策は変化した。占領を終えるに際し講和条約をソ連など東側の一部の国が拒否し、わが国は自衛力を保持して日米安保条約を結び西側の一員として主権回復した。
これを「単独講和」と批判して反対し、ソ連などを含む「全面講和」を主張したのが社会党や共産党だ。日本を非武装のままにする憲法9条を「平和主義」と呼び換えて改正に反対し、自衛隊は憲法違反として反対して解消を求め、反米反安保闘争を継続的に組織して「中立化」を試みてきた経緯がある。
自国守り抜く実力を
問題なのは、社会党の非武装中立論が護憲運動、反米反安保思潮など政策的影響を残して政界再編の過程で野党に拡散したことだ。同盟国のないウクライナでは、自分の国は自分で守ろうと戦う人々の必死の抵抗が続いている。わが国は憲法改正を含めて同盟国と自国を守り抜く総合的な実力をつけなければならない。