台湾は、東日本大震災による東京電力福島第1原発事故後の放射能汚染のリスクを理由にした福島県など5県産の食品輸入停止措置を解除することを発表した。台湾は環太平洋連携協定(TPP)への加盟を申請している。わが国との貿易障害を取り除く姿勢を歓迎し、自由貿易を担う主要な一員としてTPPに迎え入れたい。
被災地復興の証しに
福島第1原発事故により輸入規制を導入した54カ国・地域のうち米国、欧州連合(EU)はじめ規制を解除した国・地域は40以上に増えている。なお中国、韓国など一部の国・地域で日本産食品の産地・種類に応じたさまざまな輸入規制が続いているものの、台湾が解除に踏み切ることは、大震災と原発事故から11年を経ようとしている被災地の復興が着実に進んでいく証しとなる。
台湾が禁輸措置を解除するのは、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産のキノコ類、野生鳥獣肉、コシアブラを除く食品だ。蔡英文総統は発表の際にツイッターで「台湾と日本は経済貿易を含む、あらゆる意味において重要なパートナーです」と日本語で投稿した。5県産食品の輸入再開は日台関係をさらに深めるランドマークとなろう。
特に重要なのは、台湾が昨年9月にTPPへの加盟を申請しており、蔡政権の禁輸解除には加盟国である日本との貿易上の問題を解消して加盟に向けた弾みとしたい強い期待があることだ。「一つの中国」を主張して台湾への武力侵攻を辞さないと受け取られる挑発を繰り返している中国が、同じ時期に一足先にTPP加盟を申請したことに対する焦りも裏腹だ。
台湾の孤立化を狙う中国は、蔡政権発足からパナマ、ニカラグアなど8カ国と国交を結び台湾と断交させたが、世界保健機関(WHO)などの国際機関からも新型コロナウイルス感染の世界流行(パンデミック)の深刻な局面にもかかわらず締め出しを図っている。台湾の国際関係をとことん希薄化して「統一」しやすくする狙いは執拗(しつよう)だ。
しかし、習近平国家主席体制の中国の脅威が増大し、台湾に対する野心をさらけ出すにつれて、これを懸念する欧米諸国などから要人の台湾訪問が増え、リトアニアでは事実上の外交機関である台湾代表処設置など実務関係も築かれてきた。加えて、TPPに加盟することにより台湾の国際的位置と共にアジア太平洋地域は安定度を高めるだろう。
また、わが国においても台湾は自由主義市場・民主主義体制の同じ価値観を持つ地域であり、経済安全保障の大きな役割を担っている相手であることは疑いようがない。
経済安保の運命共同体
パンデミックで供給網リスクが浮上しており、半導体不足は世界各地で経済的支障をもたらしているが、台湾積体電路製造(TSMC)はじめ半導体産業が世界有数のシェアを持つまで成長しており、熊本県での工場建設などわが国への投資も注目された。
TPP加盟国であるわが国は経済安保の運命共同体として台湾の加盟を支援すべきだ。