大学入学共通テスト初日の試験中に「世界史B」の問題が流出した事件で、19歳の少女が警察に出頭して関与したことを認めた。入試は受験生の進路を大きく左右する。公平性を損なうことは許されない。厳正な処罰と共にカンニング防止策の強化が求められる。
女子大学生が警察に出頭
香川県警に出頭した少女は大阪府に住む女子大学生で、別の大学への入学を希望して共通テストを受けた。試験問題の漏洩(ろうえい)について「スマートフォンを上着の袖に隠して撮影した。成績が上がらず魔が差した」と話しているという。
世界史Bの問題は地理歴史・公民の試験中に撮影され、インターネット電話「スカイプ」のチャット機能で外部に送信された。問題が送られてきたという男子大学生によれば、家庭教師紹介サイトを通じ高校2年生を名乗る人物から送信され、試験終了時間までに解答を送った。
この人物はサイトなどで少なくとも4人の学生と接触し、国語など複数科目の解答も依頼。大学入試センターの相談を受け、警視庁が偽計業務妨害容疑で捜査を進めていた。
スマホなどの通信技術が発達する中、今回の事件は「氷山の一角」との指摘も出ている。2011年には、京都大などの入試問題が試験中にネット掲示板に投稿され、仙台市の男子予備校生が偽計業務妨害容疑で逮捕される事件もあった。
多くの受験生は自らの将来を切り開くため、懸命な努力をして入試に臨んでいる。カンニングなどの不正がはびこれば、入試への不信感が増幅し、受験生に悪影響を与えることにもなりかねない。
共通テストでは、スマホやウエアラブル端末、ICレコーダーなどは試験会場への持ち込みが許されているが、必ず電源を切ってかばんなどにしまうように決められている。しかし受験生がスマホを巧妙に操作すれば、今回の事件のように試験監督者が気付かないケースも出てくるだろう。
共通テストでは、国語の試験中にスマホを股に挟み、参照できる状態で試験を受けて失格になった受験生もいる。スマホなどの電子機器は持ち込み自体を禁止すべきではないか。
新型コロナウイルスの感染対策で例年よりも広い教室を使用したことが事件につながったとの見方も出ている。共通テストの試験監督者の数は、教室の広さや形状ではなく、受験生の数に応じて決まる。このようなルールも見直しが求められよう。真剣に入試に臨んでいる受験生のためにも、文部科学省や大学入試センターは再発防止を徹底しなければならない。
道徳教育の充実も必要
今回の共通テストでは、高校2年の17歳少年が東大前の歩道で受験生ら3人を刺傷する事件が発生した。やはり成績が振るわないことを苦にして事件を起こしたという。
希望の大学に合格したいという気持ちは理解できる。だが自分のことだけを考え、他者の存在をないがしろにしてはならない。自分が多くの人の支えで生かされていることを伝える道徳教育の充実も必要だ。