バイデン米大統領の就任から1年が過ぎた。バイデン氏は就任演説で国民融和を訴えたが、与党・民主党内すらまとまらず、目立った成果を上げられていない。党内で影響力を強める急進左派勢力に主導権を握られる中、かえって国民の分断を深めているのが現状だ。
行き詰まるリベラル路線
バイデン氏は就任直後、メキシコ国境の壁建設を中止するなどトランプ前政権の政策を覆す大統領令を次々と発令。心と体の性別が一致しない「トランスジェンダー」が軍務に就くことを禁じた規定も撤廃するなど、リベラル路線を推進した。
だが、左派勢力に引きずられた政権運営は、行き詰まりを見せている。
バイデン氏は、育児支援や気候変動対策など左派勢力の希望する政策を盛り込んだ大型歳出法案を看板政策に掲げた。ところが、インフレを助長させる懸念から民主党中道派のマンチン上院議員が反対を表明したことで、議会通過の見通しが立たなくなった。
また、郵便投票の拡大などを盛り込んだ選挙改革法案の可決を強行するため、上院で共和党の議事妨害(フィリバスター)を阻止するための規則変更を試みた。かつてはフィリバスター阻止に反対だったバイデン氏だが、左派勢力の要求に応じる形で翻意した。しかし、中道派議員2人が「国民の分断を悪化させる」などの理由から造反し、結局は失敗に終わった。
バイデン氏は今月、南部ジョージア州アトランタで演説し、法案に反対する共和党議員らをジョージ・ウォレス元アラバマ州知事らかつての人種隔離主義者に例えた。
異論に対して「人種差別主義者」などと決めつけ、封殺するのは左派の常套(じょうとう)手段だ。挑発的なレトリックに頼れば、国民の融和はますます遠のく。
歯止めのかからないインフレ、不法移民の急増、新型コロナウイルス感染拡大などの問題への政権の対応に有権者の不満が広がっており、バイデン氏の支持率は40%台前半に低迷。特に無党派層のバイデン氏離れが顕著となっている。左派の求める政策に注力するあまり、多くの米国人にとってより身近な問題への対応が疎(おろそ)かになっていることがうかがえる。
外交政策では、トランプ前政権の「米国第一主義」から、多国間主義への回帰を誓った。しかし、アフガニスタン駐留米軍撤収では、見通しの甘さから混乱を招き批判を浴びた。特に自国民やアフガン人協力者を残したまま米軍を撤収したことで、米国への信頼は大きく揺らぐこととなった。
昨年12月には「民主主義サミット」を開催し、中国やロシアを念頭に権威主義に対抗していく姿勢を強調した。中国は台湾侵攻への野心をむき出しにし、ロシアによるウクライナ侵攻も現実味を増している。
左派と距離を置くべきだ
今後、危機が迫った時に断固とした対応を示せるかで、バイデン氏の真価が問われることになろう。
国民融和を実現させるためには、左派勢力と距離を置くことも不可欠だ。