韓国編 岩崎 哲
韓国大統領選では「30・40・30」の“原則”が今回も適用されそうだ。3割の保守層、4割の中間層、3割の左派支持層に分かれる中で、この4割の中間層をどちらが取り込むかが勝敗の分かれ目となる。
かつて韓国の選挙は「地域感情」が作用してきた。慶尚道と全羅道をそれぞれ基盤とする候補者が中間層とみられる忠清道や江原道でどう支持を延ばすかが競われた。今ではそれが消えはしないが薄れてきている。代わりに票の動向を視(み)る変数として世代が注目されてきた。中でも「MZ世代」あるいは「2030世代」と言われる若年層の支持をいかに獲得するかに各陣営の関心が割かれている。
月刊朝鮮(5月号)が特集を組んでおり「20代24人グループインタビュー、彼らが考える『2025大統領選』」を載せた。20代の有権者は611万人で全体の13・8%になる。「絶対的多数ではないが、昨年の総選挙では若者の投票心理の行方を決定するキャスチングボートになる」と言われていた。大統領弾劾という政治的大事件を経験して、彼らの投票行動が注目される。
話を聞いてみて意外なのが、評価する大統領として「李明博」を挙げる者が多かったことだ。財界出身でソウル市長を経て大統領となり、交通カードの導入やソウル市の中心を流れる清渓川の公園化などをはじめとしてさまざまな基盤整備を行った。
その時期、子供だった彼らは生活が整っていくことを肌身で感じ、また茶の間で親たちが評価する言葉を聞いて育っている。それが大きく影響していると、このインタビューを分析した大学教授たちは解説している。
さらに意外だったのが李承晩、朴正熙、全斗煥の各大統領への評価が高かったこと。50代60代を指す「86世代」(日本でいう団塊の世代)が1980年代民主化運動の中で学生時代を過ごし、共産主義や北朝鮮の思想的理念的影響を色濃く受けてきたため、独裁政権や軍事政権への嫌悪感が強い。これに対して、経済的恩恵を受けて育った若者たちは実用的で、屈託なく李承晩や朴正熙らの業績を評価する。
こう見てくると基準はもっぱら「生活の豊かさ」「経済」にあるようだ。そしてそれを可能にした国家の基盤を築いた人物への評価だ。
安定や発展を望み、合理的で保守的傾向のある若者が今回の戒厳・弾劾という「特別な事件」を経験してどう感じただろうか。「戒厳って、いつの時代のことだよ」「恐ろしかったよりも、くだらなかった」「尹大統領の言い分も理解できる」「共に民主党はひどすぎた」などの感想は十分に冷静で客観的だ。
話を分析した教授らは「20代は人物でなく政策を聞いて決める」ことに注目し、「保守だ、進歩(左派)だというのでなく、状況によって変わり得る世代」だとみている。もはや理念的なものが争点にはならないというわけだ。
共に民主党の李在明候補が「モクサニズム」と言いだした。直訳すれば「食べて暮らす主義」となる。まさに若い世代に焦点を合わせたようなスローガンだ。これが若者の胸に刺さるかどうかは選挙結果を見るしかない。