トップオピニオン論壇時評司法による宗教迫害 国際法に反する解散命令 【論壇時評】

司法による宗教迫害 国際法に反する解散命令 【論壇時評】

森田清策

2世救済名目で官製“洗脳”か

東京地裁が世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の解散を命じる決定を下した。これに異議を唱える識者は少なく、世論の大多数が賛成する。一方、国際法の観点からは、刑事事件を起こしていない教団の解散命令はどう捉えられるのか。地裁とは言え、初めて民事事件を理由にした解散を命じる決定が下された今だからこそ、「信教の自由」についての国際基準を知ることの意義は大きい。

月刊「Hanada」5月号は、フランスの国際弁護士パトリシア・デュバルのインタビュー記事を掲載した(「『解散命令請求』は国際法違反の宗教弾圧」)。インタビューしたのはノンフィクション作家の福田ますみ。東京地裁が決定を下す前に行われたものだが、国際法の権威として知られるデュバルは「公共の福祉」を基準にして解散させることは「国際法違反」と断言する。

この記事でまず注目したいのは「宗教の問題について違法性を認定するのに、社会的相当性とか社会規範に基づいて違反だとするのは、欧州の人権基準からはあり得ない」としたデュバルの発言だ。

伝統宗教、新興宗教に限らず宗教には、世俗の社会通念からは理解できない考え方や儀式を持つ。時にはそれが世俗側から逸脱行為と受け取られることもある。もちろん、刑事事件は言うに及ばず、他者に迷惑をかけることはやってはいけない。

しかし、だからと言って、それを民法上の不法行為として解散要件に入れるのは、信教の自由という基本的人権を制限することの重大性に鑑みればあり得ない、というのが国際基準だということだろう。

日本の宗教法人法第81条1項は「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」を、宗教法人の解散事由にする。東京地裁は、過去の民事裁判などから、家庭連合はこれまでに“類例のない被害”を生じさせたことがそれに当たると認定した。

これについてデュバルは、国際人権規約の自由権規約第18条3項の「宗教または信念を表明する自由に対する制限事由」の中に「公共の福祉」「社会的相当性」は入っていないと説明する。従って、家庭連合に対する解散命令請求が「そもそも国際法違反」というのである。

記事では触れていないが、デュバルは講演などで、国連自由権規約人権委員会が日本政府に対し、信教の自由を制限するために「公共の福祉」を用いるのをやめるよう繰り返し勧告してきたことを明らかにしている。日本政府はこれを無視してきた。ここで、筆者は疑問を持つ。なぜ、わが国の国際法専門家や宗教学者は論壇でこの事実を明らかにし、警鐘を鳴らさないのか、と。

一方、国際法が信教の自由を制限する事由に「公共の福祉」「社会通念」を入れない理由はどこにあるのか。客観的な判断基準がある刑法と違い、これらの曖昧な概念は、国家権力に特定の教団を潰(つぶ)すために恣意(しい)的に使われ、宗教迫害を引き起こす危険が高いからだと考えられる。

日本も自由権規約を批准しているから、このことは日本政府も認識しているはずだ。その証左に、山上徹也被告による安倍晋三元首相銃撃事件(2022年7月8日)が起きた3カ月後、家庭連合に解散命令請求する法的根拠がないと閣議決定した上、解散要件は刑事事件だけで民事は入らない、と岸田文雄首相(当時)が国会で答弁した。

それなのに岸田氏は民事も入る、と一夜にして要件変更した。当時、多くの自民党議員が家庭連合の友好団体から選挙応援を受けていたことで、マスコミから猛批判にさらされていた。政権を維持したい岸田氏は宗教基本法の解釈を変更して、教団の解散命令を請求することで、批判から逃れようとしたとしか考えられない。

裁判所もそれを追認したことは、信教の自由という人間の尊厳を支える基本原則が国際社会ほどには、日本に根付いていないことを露呈させるものだったと言える。このほか、インタビュー記事は、信教の自由についての日本の捉え方と国際基準との間に大きな溝があることをさまざまな事例を挙げて示している。

家庭連合を巡る訴訟では、裁判所は正体隠し伝道や先祖の因縁を用いた献金勧誘を違法と認定した。しかし、デュバルは出会った時に「正体を明かさないで、その後、集会などで自分たちはこういう宗教団体ですよと明かすのは法律上全然問題ない」とする。また「先祖の因縁とカルマ(業)とか、そういうことを話すことも宗教の世界ではよくあることなので何の問題もない」と強調する。さらに、教団信者が人の自由意思を侵害して献金させたと認定した際に用いた「精神操作理論」には科学的根拠がなく、国際基準では否定されているという。

そのことを示す例として、ロシアの裁判所がキリスト教系のエホバの証人の解散命令を下したことについて、欧州人権裁判所は信教の自由の侵害を認定したことを挙げた。ロシアの裁判所は、この教団がいわゆるマインドコントロールの技術を使ったとしたが、同人権裁判所はそれを「事実による裏付けのない憶測」と裁定した。

これについて、福田は「マインドコントロールを盾にしたロシア当局の主張は、家庭連合を巡る裁判での全国弁連の主張、さらには日本の裁判所の判断とそっくり」とした上で、「わが国は民主主義国であり、宗教の自由が保障されていたはずです。それが、いまやロシア並みに堕(お)ちてしまった」と断罪した。全国弁連とは、強固な反共産主義を掲げる家庭連合とその友好団体に敵対する左翼弁護士らで組織する全国霊感商法対策弁護士連絡会のことだ。

さて、東京地裁の解散命令決定に対し、家庭連合は即時抗告し審理は東京高裁に移ったが、解散となった場合、信者の人権はどうなるのか(教団はすでに人権侵害が起きていると訴えている)。デュバルは昨年1月に首相官邸で開かれた「旧統一教会問題に係る被害者等への支援に関する関係閣僚会議」で正式採用された取り組みに注目する。2世信者らを対象とした「特別なカウンセリング」のことだ。

ここでカウンセラーなどに助言と指導を行うのは家庭連合の元信者や背教者。「つまり政府は、二世の子供たちを救済するという口実のもと、学校で『脱会カウンセリング』を行い、親から隔離し、二世たちが親世代の信仰を継承しないように働きかけをする」と、この特別なカウンセリングの狙いを喝破する。福田の言葉を借りれば「官製ディプログラミング」(脱会のための“洗脳”)だ。

このディプログラミングについてもデュバルは、自由権規約18条1項の信仰の自由の権利侵害だけでなく、同4項の、親が自らの信仰に基づき子供を教育する権利の完全な侵害だと明言する。だから、福田は「わが国はもはや民主主義国ではなく、ロシアや中国に限りなく近づいている」と憤った。

では、家庭連合はどうしたらいいのか。裁判は今後、最高裁まで行くだろう。デュバルは次のように語る。「その間ずっと、国連と国際社会に、この非道な宗教迫害を粘り強く訴え続ける」、それが唯一できることだとアドバイスする。

福田も訴える。「これで実際に解散命令が下ってしまえば、日本はもはや信教の自由が存在しない国として、海外から囂々(ごうごう)たる非難に直面する。裁判所には、はたしてその覚悟はあるのだろうか」。こうした問い掛けを真剣に受け止める有識者・国民が少ないこと自体が信教の自由を巡る国際基準との乖離(かいり)を表しているのだろう。(敬称略)

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