韓国編 岩崎 哲
方向を見失った韓国外交
日本通として知られる月刊朝鮮の裵振栄(ペジニョン)編集長が同誌4月号で「弾劾騒動で方向を見失った韓国外交」を書いている。終わらないウクライナ・ロシア戦争、ロシアに接近する北朝鮮、それにトランプ米2期政権の出発と相互関税、等々、韓国が直面する外交課題は山積みなのに、尹錫悦弾劾事態で“120日間の外交空白”をつくってしまった。
ようやく弾劾にも決着がついたが、今度は6月3日に予定される大統領選まで、やはり同じように韓国は内向きを続けて、国内の“理念闘争”に没頭するだろう。
裵編集長の記事は憲法裁判所の弾劾判断が出る前に書かれているが、大統領選で野党共に民主党の候補が当選する可能性を踏まえて、過去の盧武鉉大統領や文在寅大統領のような左派政府ができた場合を想定して、早々と警告を発したものだ。
左派が再び政権を取れば、尹氏が進めてきた日米との連携協力は見直される可能性が高い。なにしろ、当初、弾劾の理由に(後に外されたが)「親日米、反中露」外交路線を取ったことを挙げていたほどで、そうでなくても前政権が否定される韓国にあっては、尹氏の外交政策が廃棄され、左派路線に戻されるのは避けられそうもない。
これまで左派政権が進めた外交といえば「自主外交、実用外交、均衡者外交」である。これは日米など、自由民主主議、資本主義経済陣営に軸足を置き、北朝鮮、中国、ロシアなど共産主義陣営と一線を画す保守が取ってきたポジションに対して、両陣営の間にあって、時に両者を天秤(てんびん)に掛け「実利」を取っていく「自主」的であり「実用」的な外交のことである。盧武鉉氏に至っては米中の間でバランサー(均衡者)になると胸を張ったが、韓国の外交力量の限度を超えた“幻想”に終わった。
裵氏が心配するのはその「幽霊がまた頭をもたげ始めた」ということだ。加えて「米国第一主義に包装された“孤立主義”」を掲げ、「北朝鮮の金正恩総書記、ロシアのプーチン大統領を“友人”と呼ぶ」トランプ氏の再登場により、次の左派政権も自主外交、実用外交、均衡者外交の道に進むだろうことが予想される。
ここで裵氏は日本の“教訓”を挙げる。「明治維新から1910年代中盤まで日本外交の中心軸は英米だった」とし、英米がロシアを牽制(けんせい)していくための「ジュニアパートナー」として日本は外交的地位を確保したと述べる。そして、その絶頂が02年の日英同盟であり、05年の日露戦争勝利だった。
その後、列強と肩を並べた日本は満州(現中国東北部)と中国へ進出して行き、英米らのジュニアパートナーに甘んじることをやめ、彼らと利益衝突を引き起こしていく。さらに日独防共協定、日独伊三国同盟という“愚かな選択”を取ってしまった。
「今考えればあまりにも明白な“愚かなこと”が当時の日本人たちには自主外交、実利外交、均衡者外交だと映った」と裵氏は分析する。ドイツ、イタリアと手を組み、ソ連とは中立条約を結び、欧米の植民地だった東南アジアを抑えたことを「かなり賢い実用主義的選択だと満足したのではないか」という指摘は耳に痛い。
結局、日本は敗れるのだが、「ここで教訓を得た日本は第2次世界大戦後、誰が何と言っても米国と密着する外交路線を一貫して堅持してきた」と裵氏は言う。まさにこの点が強調したいところなのだろう。
奇(く)しくも1905年、日本が英米と手を握ってロシアに打ち勝った時、大韓帝国は愚かにも「国際的公敵だったロシアを頼った」結果、日本が韓国の外交権を取り、事実上保護下に置く第2次日韓協約を結ぶ年となった。干支では乙巳(いっし)年といい、これを取って韓国では「乙巳条約」という。
今年が偶然にも乙巳年だ。裵氏は120年前と同じように「選択を間違えると、大韓民国はまた中国の言い成りになる三流国家に転落することになるだろう」と危機感を募らせる。
「国家存亡の岐路に立つ」韓国の今後の選択がこれほど重要なのだとしても、また、その警告が多くの保守系メディアから発信されていたとしても、事実上、大統領選に突入した政界はじめとする韓国民の耳にこの警鐘が届くかどうかは分からない。