トップオピニオン論壇時評「大統領と別れる決心」保守壊滅“失われた30年”を予言

「大統領と別れる決心」保守壊滅“失われた30年”を予言

3日、ソウルの韓国大統領公邸近くに集まった尹錫悦大統領の支持者ら(時事)
3日、ソウルの韓国大統領公邸近くに集まった尹錫悦大統領の支持者ら(時事)

月刊中央(1月号)が「大統領と別れる決心をした大韓民国、どこへ行く」という特集を組んだ。その中で「代表的な進歩的な論客」と言われる「陳重権(チンジュングォン)光云大特任教授」は「これから韓国保守は“失われた30年”を体験するだろう」と警告している。穏やかでない。

もっとも、尹錫悦大統領の非常戒厳発令と弾劾、内乱罪での告発など、韓国の保守はかつてない逆風に晒(さら)されており、ダメージの回復には相当な時間がかかるだろうことは想像に難くない。だが「30年」とは長い。陳教授は何を根拠に暗い保守の未来を予言するのだろうか。

尹大統領の戒厳発令には多くの韓国民が驚き反発した。当初は保守メディアでさえ、「軍事政権時代でもあるまいし、民主化を達成し、Kポップが世界を席巻している時に、戒厳という極端な選択はあり得ない。憲政を破壊するもの」と批判していたほどだ。

最近ではさすがに危機感を抱いたのか、保守勢力が尹大統領支持の集会を開き、内乱罪での拘束に強く抵抗している。世論調査でも支持率は元に回復した。

陳教授へのインタビューは12月半ばに行われたもので、その1カ月後に尹大統領が拘束される状況での見解ではない。ましてや、支持率が回復することも予想していなかっただろう。

だが、それでも保守はこれから厳しい時代に入っていく。陳教授は「(保守与党の)国民の力は終わった。これからは“失われた30年”にいく」と断じる。

「まず10代20代は弾劾賛成集会に参加した。彼らにはとても重要な記憶として残る。50代60代は民主化時代の記憶を、70代80代は韓国動乱の記憶を共有している。今は弾劾の記憶だ。教科書でも習った(動乱や軍事クーデター、民主化運動のような騒乱)を現実に体験した。本人らが歴史を書いたというある種の自負心ができた。これが10代20代の世界観を構築するだろう」

1980年代の民主化運動を体験した世代、すなわち50代60代には軍事政権への嫌悪と民主化を達成したという自負がある。当時、運動を主導したのは軍事政権への反発から、禁止されていた共産主義や北朝鮮の主体思想などに運動論を求め、思想的よりどころとしたことで、おのずと左派系の思考方式が身に付いている。その大人たちが推しているのが現在の共に民主党となっている左派政党の流れである。

戒厳事態を経験した若者が「保守への嫌悪」を抱き続けたとしたら、向こう30年は保守にとって勝ち目はないという見立てだ。ところが「国民の力でこれを心配し憂慮する人が一人もいない」と陳教授は嘆く。「ひたすら関心は公認権(党主導権)だけだ。残りは大統領選出馬に血眼になっていて、愚かだ」と唾棄する。

しかし、分が悪いのは保守だけではないとも陳教授は言う。「昔は大統領を追い出せば社会は良くなるという希望があったが、今はない。尹大統領を追い出せば次は李在明だ。民主党だ」と述べる。

「これで果たして社会が良くなるか。政権を取れば報復し、また政権を奪えば報復して、と。李在明が大統領になれば何をするか想像できる」とも。

今回の事態が韓国社会にもたらした傷痕が深いことがよく分かる。歴史の整理に時間を要するだろうことも容易に想像がつく。

(岩崎 哲)

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