子供の視点欠き分断生む
「同性婚」と同じリスクをはらむのが「選択的夫婦別姓」(夫婦別姓)だ。石破茂首相は自民党総裁選の最中、「選択的ということだから否定する理由はない」と制度導入に前向きの姿勢を示した。ここにも希望者が存在するのだから、それをかなえることは社会の幸福度アップにつながるという発想が窺(うかが)える。その一方で、子供の視点が抜け落ちている。
しかし、立憲民主党はじめ野党は夫婦別姓推進派が多いし、自民党内にも賛成する議員は少なくない。法案が提出されれば、可決する可能性が高いから差し迫ったテーマである。
このため、LGBT理解増進法の次は夫婦別姓か、と保守派論壇は危機感を強めているが、その中で「日本社会全体を分断する危険性を秘めている」と警鐘を鳴らしたのは産経新聞政治部編集委員兼論説委員の阿比留瑠比氏だ(「選択的夫婦別姓法案は自民党“終焉”への道」=「正論」1月号)。
もし夫婦別姓が導入されれば、同姓を選ぶ家庭と別姓を選ぶ家庭との間に「分断が生じる」。また、夫婦が別姓を選択すれば、その子供と親との間に溝が生まれるし、兄弟姉妹の間でも姓が違ってしまう可能性もある。だから、ジャーナリストの門田隆将氏は「夫婦別姓は“強制的親子別姓”であり、同時に“兄弟姉妹別姓”でもある。つまり、家族の姓がバラバラになる」と指摘する(「ああ、悪夢の『夫婦別姓法』が通ってしまう」=「WiLL」1月号)。
門田氏はさらに「先祖代々の墓もあっという間に消え、日本が世界に誇る緻密(ちみつ)な戸籍制度は『選択的』という言葉を突破口にたちまち瓦解に向かうでしょう」と危機感を募らせた。保守派の言論人は、夫婦別姓は自民党の左傾化の象徴であり、日本の伝統文化を破壊するとみているのだ。
国連の「女性差別撤廃委員会」が10月末、夫婦別姓の導入を勧告した。立憲民主党は導入に向け関連法を1月召集の通常国会に提出する方針だ。伝統文化の破壊につながりかねない内外からの圧力に「選択的ということだから否定する理由はない」と言ってのける首相ではとても抗(あらが)えまい。年の瀬にそんなことを考え、心が重くなってしまった。
(森田 清策)