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家族は子育ての仕組み、「同性婚」の盲点

家族のイメージ(Photo by Jessica Rockowitz on Unsplash)
家族のイメージ(Photo by Jessica Rockowitz on Unsplash)

夫婦と同性同士、愛は同じか

石破茂首相が参議院予算委員会(17日)で、「同性婚」の実現は「一人ひとりの熱烈な思いが実現されれば、日本全体の幸福度にプラスの影響を与える」と語った。首相は、自民党総裁選前から「同性婚が認められないことで不利益を受けているとすれば、救済する道を考えるべきだ」などと、同性婚の法制化に前向きとみられる発言を行っていたので驚かない。

同性婚を認めると、なぜ社会の幸福度にプラスになるのか判然としないが、石破氏のこれまでの発言からすると、不利益を被る人が減るからプラスになると単純に考えていることが推測できる。つまり、その制度化のマイナス面は考慮に入れていないのだろう。

一方、衆議院解散前の臨時国会(10月)では「国民一人ひとりの家族観とも密接に関わる」と発言、制度導入に慎重な姿勢を見せてもいる。これとて選挙を前に、同性婚に強く反対する保守の有権者を意識してのことだろうから、石破氏の家族観の曖昧さ、信念のなさが余計に際立つ。さらに言えば、同性婚について揺れ動く発言は、石破氏のリベラル思想を表していると言っていいのではないか。

同性婚への賛成理由として、不利益を受けている人の救済というのはあまりに表層的である。かつてNHKの看板女性アナウンサーが「誰でも好きな人と結婚できる社会をつくりたい」と情緒的な発言を行ったが、石破氏の発言はこのレベルと大差ないのである。

福岡高裁が12月13日、同性婚を認めないことは「幸福追求権」(憲法13条)を侵害するとの判断を示した。5年前だったら、まったく違った判断が示された可能性が高い。同高裁に限らず近年、同性婚を認める司法判断が続いているが、そこにはリベラルなマスコミとそれに影響された国民世論の変化が大きく影響しているとみて間違いない。

政治、マスコミ、司法の各界で同性婚容認論が強まっているのは明らかだが、同性婚の是非を判断する上で最も核心的な問題は何かと言えば、それは婚姻制度の目的をどう考えるかである。

月刊誌2025年1月号の中で、この問題を考えるヒントになる識者の発言があった。「日本の問題は経済問題ではなく人口問題だ」と、30年前から警鐘を鳴らし続けてきたフランスの家族人類学者エマニュエル・トッド氏は、経済学者の成田悠輔氏との対談「日本は欧米とともに衰退するのか」(「文藝春秋」)で次のように語っている。

「育児を可能にする持続的な夫婦関係」の有無がチンパンジーとホモサピエンスの違いだとしながら「人類の『家族』は『子育て』を効率的に行なう仕組み」だと。そのような目的を持つ家族の中で、核となるのが“夫婦”である。婚姻制度はその夫婦を安定させるための仕組みなのである。だから、日本の民法学の通説は次のようになっている。

「婚姻は単なる男女の性関係ではなく、男女の共同体として、その間に生まれた子の保護・育成、分業的共同生活の維持などの機能をもち、家族の中核を形成する」(佐藤隆夫『現代家族法Ⅰ』)

トッド・成田両氏の対談は、同性婚の是非について論じたものではないが、その是非を論ずる場合、当事者の幸福だけでなく子供の視点を入れることが不可欠であることを示唆しており重要である。また、生まれてくるであろう子供のために、男女が安定した関係を築くことを後押しする婚姻制度の変更は出生率の低下を招くリスクがあることも考慮する必要があろう。

さらに、トッド氏は示唆に富んだ指摘を行っている。「私自身のユダヤ系のバイアスもかかってしまいますが」と前置きしながら、「『子供を賢くする』のは、単に知識を子供に叩き込むことではなく『子供に愛をもって接する』ということです」と、子育てにおける愛情の重要性を強調した。

その愛は国や公的機関が「組織化することは不可能」だから、人間が与える以外にない。だとすれば、同性婚の是非は夫婦の愛と同性カップルの愛は同じかという問題も惹起(じゃっき)する。同性婚を待ち望む人がいて、それが実現されれば社会の幸福度がアップするという石破氏の発想はあまりに浅薄である。首相ともなれば、そのマイナス面も熟慮して発言すべきだろう。

(森田 清策)

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