元外交官の会が弾劾案を批判
韓国の尹錫悦大統領に対する弾劾決議案の中で、尹氏が犯した罪として「日本と仲良くしたこと」が含まれている。冗談のような話だが、野党共に民主党はこれを挙げているというのだ。
「月刊朝鮮」(12月号サイト版)で同誌の裵振栄(ペジニョン)記者が「事大外交の延長線、日本に対する不必要な民族主義感情誘発」の記事を載せた。
「国を愛する元外交官の会」は7日、弾劾案に対して声明を出した。同会が批判する弾劾案のその部分を見てみよう。
「いわゆる価値外交という美名の下に地政学的均衡を度外視したまま北朝鮮と中国、ロシアを敵対視して、日本中心の外交政策に固執し、日本に傾倒した要人を政府の主要職位に任命するなどの政策を繰り広げることによって、北東アジアで孤立を自ら招来して国家安保と国民保護義務を放り出した」
尹大統領には「憲法または法律に背反した」点があると指摘されているが、その法律違反の一つにこれが挙げられていることは、日本として強く警戒せざるを得ない。
「国家安保と国民保護」の義務を放棄したというが、日韓のシャトル外交や防衛相会談の復活、また、米国も含めて3国首脳で確認した「キャンプデービッド精神」(2023年)、これらが「義務を放棄した」外交だとの解釈だ。
問題は、もしこの弾劾案が可決されれば、韓国国会は対日協力・親善外交を「法律違反」だと認めたことになり、今後、いかなる政府が立とうとも、日本との良好な関係を築けないということになる。
その一方で、同会は声明で、野党指導者の姿勢を批判している。彼らの発想は「『中国は大きい山で、韓国は小さい山』と言った文在寅の軽挙妄動と、李在明の『謝謝』発言に表れている深刻な事大外交の延長線」だとした。事大とは「大に仕える」ことであり、具体的には中国に傾倒した外交姿勢で、それが野党政権が主張する「地政学的均衡」であり、「従北親中」「反日離米」として展開されてきた。
文在寅氏は大統領として2017年に中国を訪問した際、北京大学での講演で「中国は高い山の峰のような国」であり「(韓国は)中国の夢と共にいる」と発言したことがある。また李在明氏は今年3月、政府の対中外交政策を批判して「なぜ中国にちょっかい出すのか。ただ『謝謝』、台湾にも『謝謝』と言えばいい」と話した。さらに李氏は「台湾海峡がどうなっても、われわれには何の関係もない」とまで発言し、外交感覚が疑問視されていた。
野党は弾劾案が可決されるまで出し続けるようだが、弾劾は国会議員(定数300)の3分の2の賛成で成立する。現在野党勢力が192人で、与党の中から8人の造反が出れば、尹氏は弾劾されるが、既に数人が賛成に回ることを明らかにしている状況だ。
ここに「日本に対する不必要な民族主義感情を誘発させる」ことで、尹氏批判に向けて感情的な“燃料投下”をしようとしているのだ。元外交官たちはむしろそれこそが「反国家的形態」だと批判する。
韓国は北朝鮮の核・ミサイル脅威、台湾海峡危機での中国の圧力、北朝鮮と関係を深めるロシア、と脅威に囲まれている。日本との協力、米国との同盟関係を深め結束していくことが外交の道理に合った道であることは明らかである。
尹氏退陣要求が勢いを増している中で、裵記者が「国を愛する元外交官の会」の声明を報じたことには大きな意味がある。
(岩崎 哲)