学術団体トップが地道な取り組み提案

作家韓江(ハンガン)氏のノーベル文学賞受賞は、韓国民のノーベル賞に対する渇望をより一層深めたと言えるかもしれない。
「新東亜」(12月号)に韓国学術団体総連合会理事長の権大祐(クォンデウ)漢陽大教授による「受賞者“0”韓国がノーベル科学賞輩出するための四つの方策」が載っているが、それをうかがわせる一つだろう。
権教授は韓江氏の受賞を「氏個人はもちろん韓国文化界全体に対する途方もない慶事であり祝福だ」と喜ぶ一方で、「なぜ韓国ではノーベル科学賞が出ないのだろう」と疑問を投げ掛けている。科学部門では日本が25人、中国6人と、韓国がライバル視する隣国は赫々(かくかく)とした業績を挙げている。「それに引き換え、なぜわが国は」との思いは韓国学会全体が抱く問題意識だ。
こういう時、韓国はすぐに「国策」を考える。国が支援してノーベル賞受賞を目指して人材育成しようという発想だ。これはスポーツでも芸能でも似たような傾向があり、外国で評価を受けるために、国を挙げて取り組もうとするのだ。
それは韓国の国際評価を高めることに資するものだから、政府が支援、補助していくことは国益にかなう。ただ、この投入は往々にして「短期決戦」「促成栽培」になりがちだ。政権が代われば方針が変わることがあり、長期的取り組みがしづらいという社会環境があるからだ。
権教授はまず二つの考え方を提示している。一つは「ひとまず1人でもノーベル科学賞受賞者を急いで輩出する」こと。二つ目は「他の科学先進国に匹敵する水準の基礎科学国家に成長した後、何人かの受賞者を輩出していく」方法だ。
第1案がまさに「一点集中」「促成栽培」方式であるが、権教授も現実的ではないと考えているようだ。「このような方式はノーベル科学賞に関しては少し粗雑な、もしかしたら実現の可能性が制限的な考えであるかもしれない」としている。
そもそもノーベル賞は「科学の発展に根本的進展を成し遂げた新しい発見、あるいは大変重要な理論的進展」に与えられる。そのためには「たいてい数十年の間、持続的に研究」されてきた業績にならざるを得ない。
それは分かっているのだが、韓国ではその「“長期投資”するには財源が足りず、どうしても“見通せる圏内にいる”学者数人に限定される」ことになる。それに基礎科学をコツコツやること自体が「短期に派手な実績を出したがる」韓国人気質に合っていないのかもしれない。
その上で権教授は「四つの方策」を提案している。①若い学者に配慮する雰囲気をつくり、多様な分野の基礎科学研究チームをつくる②持続的研究が可能なセンターを大学内につくり、長期課題に取り組む③研究を拡散・補完する研究ネットワークをつくる④フィードバックが続けられる学問共同体で元老らの声も反映させる―である。
これらの取り組みがノーベル科学賞の受賞につながることを願うばかりだが、韓国がこれまで科学賞を取れなかったのは、韓国が置かれた環境そのものに“障害”があったことも理解しておかなければならない。
韓国の近代の出発が植民地だったことで、学問の体系と伝統が根付かなかったこと。戦争・政争が繰り返され安定的な学問環境が維持されにくかったこと。これらに加え、儒教的学問の伝統が、自然科学への関心、研究に必要な自由で束縛されない発想、などを抑制してきた面があることだ。
科学英才校である科学高等学校(カイスト高)の校庭には禹長春(ウジャンチュン)(植民地時代から戦後にかけて活動した農学者「韓国農業の父」)、蒋英実(チャンヨンシル)(中世の科学者、日時計、水時計を作った)、崔茂宣(チェムソン)(高麗末期の発明家)など韓国の代表科学者の胸像がある。その横に空の台座があるのは、将来のノーベル科学賞受賞者のためのものだ。韓国は試行錯誤を繰り返しながら、課題を乗り越え、いずれ科学分野で受賞者を出してくるだろう。
(岩崎 哲)