トップオピニオン【持論時論】人生100年時代をどう生きるか 自己超越で「利他」の高齢者に かわにし「統合セカンドオピニオン難病専門クリニック」院長 川西 秀徳氏

【持論時論】人生100年時代をどう生きるか 自己超越で「利他」の高齢者に かわにし「統合セカンドオピニオン難病専門クリニック」院長 川西 秀徳氏

 かわにし・ひでのり 1966年、京都大学医学部病理系大学院修了。シカゴのノースウェスタン大学医学部付属病院で内科インターンシップ、ミシガン大学医学部消化器内科助教授、ニューヨーク州立大学医学部内科準教授などを務め95年に帰国。亀田総合病院内科部長、浦添総合病院院長、市原寮付属福祉・医療国際研究センター長として統合介護を実施。米国・ヨーロッパ・日本の抗加齢学会専門医。著書は『超高齢社会における「老い」のあり方と「介護」の本質』(ミネルヴァ書房)他多数。
 かわにし・ひでのり 1966年、京都大学医学部病理系大学院修了。シカゴのノースウェスタン大学医学部付属病院で内科インターンシップ、ミシガン大学医学部消化器内科助教授、ニューヨーク州立大学医学部内科準教授などを務め95年に帰国。亀田総合病院内科部長、浦添総合病院院長、市原寮付属福祉・医療国際研究センター長として統合介護を実施。米国・ヨーロッパ・日本の抗加齢学会専門医。著書は『超高齢社会における「老い」のあり方と「介護」の本質』(ミネルヴァ書房)他多数。

 私は長年、老年医学を専門とする内科医として、米国で30年、日本で30年、病院や在宅の現場で、数え切れないほどの高齢者と向き合ってきた。10年前に妻を亡くし、90歳になった昨年、単身故郷の香川県高松市に帰って難病医療相談クリニックを開設し、地域の健康長寿啓蒙(けいもう)活動にも参加している。それは、100歳超えを目指して高齢期をどう生きるか、私自身の生き方を通して実践し、研究するためでもある。

 私は医師である前に一人の人間で、老化に伴って体力が落ち、友人や家族を見送る経験を重ねてきた。そこで気付いたのは、老いは医学だけでも生活だけでも語れない、老いは人生が奪われる時間ではなく、私が最も私らしくなる人生の時間であるということだ。

 老いは人生の終わりではなく、心身や環境の変化の力を借りながら、もう一段階成長する段階だと言えよう。子供から青年に、青年から大人へと成長してきたように、老年もまた次なる姿へ変わる最後で最高のプロセスなのである。

 身体が衰えると心が萎(な)え、孤独が脳の老化を早める。ところが、生きがいを持つ人は、驚くほど健康を保っている。人生における成長を振り返ってみると、若い頃は「獲得」が中心だったが、老いると「統合」「選択」「意味付け」が中心になってくる。

 「欲求の5段階説(自己実現理論)」で知られるアメリカの心理学者、アブラハム・マズロー(1908~70年)は晩年、さらに次の段階として「自己超越」を唱えた。それは「自分を超えて他者や社会、自然とつながること」で、仏教的な表現だと「利他」になる。彼と同時代に活躍した精神分析家のエリク・エリクソン(02~94年)は、心理社会的発達理論(ライフ・サイクル)を唱え、老年期は「統合性と英知」の時期だとした。

 スウェーデンの社会学者、ラーシュ・トーンスタム(44~2016年)は、高齢期には「物質主義的で合理的な世界観から宇宙的、超越的、非合理的な世界観への変化があり、そうした幸せ感が自然体で老いを受け入れる」と述べている。

 彼らは同じことを述べているのに気付くだろう。つまり、自分という枠を超えて、他者や社会、世界、宇宙など、より大きな存在に貢献するため、範囲を自己の外に広げ、より普遍的な価値や意味を求めることが高齢期をより善く生きる秘訣(ひけつ)なのである。

 健康的な高齢者の多くは利他的な価値観で、自分よりも他者の幸福や社会的な利益を優先するようになる。また、高次な目的意識から、個人的な成功よりも、大きなミッション(使命)や社会貢献を担っている。見渡すと、そういう人は結構周りにいて、地域社会や組織を支えている。

 勿論(もちろん)、ベースとしての健康や体力は必要だが、人は自己の枠を超えた視点を持つことで、自身の価値観や限界を超えて、新たな視野を獲得し、物質的な成功よりも精神的な成長を目指し、内面的な充実を図るようになる。つまり、他者や社会、世界、宇宙など、より大きな存在に貢献するため、範囲を自己の外に広げ、より普遍的な価値や意味を求めるのである。興味深いことに、そうした生き方が健康の支えにもなっている。

 高齢期に「死」は最大のテーマだが、若い頃のように「恐怖」で死を考えることは少なくなる。端的に言うと、自然から生まれた私が自然に帰るプロセスにすぎないからで、空海の言葉を借りると「即身成仏」だ。

 それは縄文時代から日本人が培ってきた死生観であり、社会学者の見田(みた)宗介(むねすけ)東京大名誉教授は、キリスト教の「原罪主義」に対して「原恩主義」を唱えた。自然と祖先への恩を感じながら生きるのが日本人だと。そう思うと、超高齢社会に突入した日本に希望が見えてくるのではないか。

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