
私はピアニストとして世間的に見れば遅咲きだ。技術的にも体力的にも工夫や試行錯誤が必要となる。だが、新しい挑戦に不安はなかった。
幼い頃から、鍵盤に触るのがとても好きだったらしく、両手を使って電子オルガンのおもちゃを弾いていた。その姿を見て、母が「これはピアノを習わせるべきだ」と思ったことが、ピアノを始めたきっかけだ。
その後、桐朋学園大学・大学院に進み、世界的なピアニストだった故野島稔氏に師事して研鑚(けんさん)を積んだ。留学に関心があったものの、父が体を壊したことで実家の福岡に戻り、子供たちにピアノを教えるようになった。
そのような中でも、バッハの鍵盤楽器作品全曲の演奏会に取り組む機会を得た。1回1時間の演奏会で1曲ずつ披露するので、2012年から始めて10年以上かかったが、それが自身の大きな力につながった。
ピアノを教える傍ら、年2回の演奏会を行う生活を続けていたが、文藝評論家の小川榮太郎先生たちに見いだされたことを機に、もう一度演奏家としての道を進もうと決意。今年2月に東京へ拠点を移した。ベートーヴェン没後200年となる27年に向けて、ベートーヴェンのピアノソナタ全32曲を演奏するプロジェクトも展開中だ。
カーネギーホールへの挑戦 最高のピアノで名曲披露へ
演奏家として再び歩み始める上で、私は一つの目標を立てた。いつか必ず「米国・ニューヨークにあるカーネギーホールで演奏する」という目標だ。大きな道しるべがあれば、いろんな道筋がおのずと決まってくると知人からアドバイスを受けてこの目標を立てたのだが、確かに大きなストーリーを掲げることは、自分にとってプラスになった。
夢を口にすることで、多くの人々から手助けを頂き、目標への糸口が見えてくる。それを確実に手繰り寄せるため、なるべく多くの人にカーネギーホールへの挑戦を語るようにしている。周囲とのつながりを通じ、自分の可能性を信じてもらえるのは、私にとって喜びであり励みだ。
さらに縁あって、多くのピアニストから愛されたピアノ「ニューヨーク・スタインウェイ」(CD368)を弾かせてもらっている。1912年に製作された、ホールでの演奏用のピアノで、舞台の上でこそ真価を発揮できるよう設計されており、ほかのピアノとは全く音の響き方が違う。音が滑らかで柔らかな上、グラデーションがあるので、弾き手からすれば非常に面白いピアノだ。バイオリンに個体差があるという話は知られているが、ピアノでもこれほど音に違いが出ることを初めて知った。
慣れるのにも大変で、最初は良いと思える音をなかなか出せなかった。このピアノで曲を演奏すると、自分のイメージとは全然違う演奏になることもあり、それが良いか悪いかの判断には迷うが、1回ごとのステージがどのように転ぶか分からない中で演奏するという体験もしている。
巨匠たちが弾いてきたピアノだけあって、音も派手な上に弾き方によって出る音が全く違う。研究を深めれば、今よりもっといい音が出るはずだ。このピアノもカーネギーホールで活躍していたというが、だからこそ同じ舞台を目指す覚悟も高まっている。
その目標に向けてもっと多くの人に私を知ってもらおうと思い、7月15日に浜離宮朝日ホールでコンサートを予定している。ずっと弾いてきたバッハやショパン、モーツァルトのほか、ベートーヴェンの「月光」「熱情」を披露するつもりだ。
天才たちが作曲した名曲を、その時代よりも進化した最高の楽器で演奏することで、天才たちの表現したかったより深い音楽の世界に臨みたい。
(談)
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管谷怜子(すがやりょうこ)氏は2022年までピアノ教室を主宰し、九州大学の非常勤講師など後進の指導にも当たっていたが、現在は演奏家としての活動に専念。24年3月にファーストアルバムをリリース、好評を得る。今年からベートーヴェン没後200年の27年に向けて「ベートーヴェン巡礼2027:ピアノソナタチクルス(全32曲)」連続演奏会に取り組んでいる。






