トップオピニオン【持論時論】集落営農で持続可能な地域づくり 農事組合法人代表理事、ジャーナリスト 多田 則明氏

【持論時論】集落営農で持続可能な地域づくり 農事組合法人代表理事、ジャーナリスト 多田 則明氏

定年後の「健康長寿型農業」に 昔ながらの共同作業の復活

 ただ・のりあき 1948年、香川県さぬき市生まれ。京都大学農学部中退。学術団体、文部科学省所管財団勤務を経て雑誌や新聞の編集者・記者となる。母の介護で96年にUターンして集落営農に参加、10年後に法人化。著書は『空海さんとふたり田舎暮らし』(アートヴィレッジ)など。

 私の農事組合法人は讃岐平野東部のほぼ平坦地にあり、昭和40年代の農業構造改善事業で圃場(ほじょう)が1枚30㌃(30㍍×100㍍)を基準に整備され、その後、土地改良事業によりパイプラインが設置され、栓を開けるだけで圃場に配水できるようになった。父らの世代からの努力の積み重ねで、農業の大規模化が実現したのである。

 周辺には面積が小さく、形がいびつな圃場もあるが、現在、約30㌶で生食用の稲と小麦を栽培し、米は乾燥・脱穀した玄米を1㌧の袋で中間業者に販売し、小麦は全量を農協に出荷している。米価は来年、やや下がる見込みで、米農家としては生産コストに見合う価格に落ち着いてほしいと思う。

 地元自治会は約30世帯で、うち半数が農地を保有し、専業農家は1軒のみ。約30年前に集落営農に取り組んだのは、農家個々の努力では農業の維持が困難になったからである。農林水産省などからの補助金を得て大型農機を導入し、10人ほどの作業員でスタートし、その10年後に農事組合法人にした。

 農地と出資金を出した組合員が20人で、理事が共同で法人を運営し、利益が出ると、農作業に従事した時間に応じて作業員に配分し、出資者には配当金を支払う。現在7人になった作業員の平均年齢は78で最高齢は87、不足する大型機の操縦者は、パートで雇っている。全員が年金生活者なので、よく作業する人で年間の手取りは150万円ほど。元気だから働き、働くから元気になるので、まさに「健康長寿型農業」だ。農水省と厚生労働省が進めている「農福連携」の一つとも言えよう。

 大型のトラクターやコンバインなどを導入しても、1袋20㌔の肥料の運搬や農機への投入、あぜや土手の草刈り、水路の泥上げなどの力仕事も多いので、非農家の若い人たちに協力してもらっている。農水省の多面的機能支払交付金を受け、作業時間に応じて日当を支払うので、参加率は高い。さらに交付金を使って土の農道をアスファルト舗装し、稲刈りの後、麦をまかない圃場の一部はコスモス畑にして、犬の散歩に来る人たちにも喜ばれている。農協と共催した幼稚園児の稲刈り体験も好評だった。

 私の記憶では、田植え機が導入された頃から、農家の共同作業は減ってきたので、集落営農に参加して、これは昔の共同作業の復活だと感じた。作業の合間の日常的な会話から地域の情報が分かり、折々の懇親会や研修旅行で親睦が深まる。さらに文化祭などでの出店やイノシシなど有害鳥獣の抑止や捕獲の作業にも、蓄積された道具と技術で対応できる。地域に全作業対応型のチームがあるようなもので、農作業が好きな人には、定年後の職住接近の仕事場として選択肢に入るようになった。

 圃場のほとんどは農地中間管理機構を介しての利用権設定の賃貸契約で、10年間が基本。更新時に、多くの地主から買ってほしいと言われるのだが、賃貸料ゼロなので法人にそのメリットはない。地主としては、返されるとほぼ耕作放棄地になり、草刈りにお金がかかる。50年前の構造改善事業に、自己負担金の支出を嫌い、売れるかもしれないとの期待で参加しなかった人たちが今、小さな農地を持て余している。

 自然災害が多発するようになった近年の大きな課題は防災で、当地でも地域防災計画を作成し、定期的に防災訓練を行っている。農家としては、いわゆる田んぼダムで流域の洪水を防ぐなど、農作業のチームは防災にも役立つ。

 歴史的に日本の農村は村人の共同作業、つまり集落営農で維持されてきた。それが戸別の家族経営が基本の欧米の農業との違いで、農政も国情に応じて異なっている。野菜の産地以外の農村はほぼ米作が農業の中心で、水田稲作を軸に人々の暮らしが営まれ、和の文化を形成してきた。その意味では、集落営農の維持、発展は地方創成の基本と言えよう。

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