編集委員 池永 達夫
インド洋の島国スリランカで21日、大統領選が行われ左派連合・国民人民勢力(NPP)を率いる野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が当選を果たした。
ディサナヤカ氏は23日に大統領就任式に臨み、翌日の24日、議会(一院制、定数225)を解散した。総選挙は11月14日に投開票が行われる。
ディサナヤカ氏の悩みは、大統領のポストは手にしたが、国会の議席数が圧倒的に不足していることだ。与党NPPの議員は総議員数225人のうち、わずか3人にすぎない。これでは巨象の頭に乗った蟻のようなものだ。
そこでディサナヤカ氏は大統領選の余熱が期待できるうちに、総選挙を仕掛けた。極少数与党からの脱却を図り、行政と議会の超ねじれ現象の解消を狙う。
スリランカは2022年4月、対外債務が支払えないデフォルト(債務不履行)に陥った。新型コロナウイルスが主要産業の観光業に大打撃を与えるとともに、輸出と海外出稼ぎ労働者の送金を急減させた。深刻な外貨不足はインフレと物資不足をもたらし、13時間に及んだ計画停電や給油に長蛇の列をつくるなど生活を直撃された国民はデモで抗議。大統領官邸が襲撃されるなど混乱の中、ラジャパクサ兄弟は大統領と首相の座を追われた。
その後を継いだウィクラマシンハ前大統領は、国際通貨基金(IMF)から30憶ドル(約4200憶円)相当の支援を取り付け、一時は70%を超えたインフレ率は2・5%程度まで低下するなど経済は落ち着きを取り戻した。だが電力料金の値上げや増税などIMFとの約束を履行したことで国民の不満と反発は強く、今回の大統領選で緊縮財政を非難したディサナヤカ氏に国民は期待を寄せた背景がある。
スリランカは小国ながらインド洋シーレーン(海上交通路)の要衝にある。そのインド洋は世界の海上エネルギー輸送の3分の2、コンテナ輸送の2分の1を占めるシーレーンが走る。「インド洋の宝石」と呼ばれるスリランカは、南端のハンバントタ港沖をタンカーなど年間6万隻もの船舶が通航する。さらに南の海域は暴風圏で海が荒れているからだ。
そうした地政学的要衝に位置するスリランカは、パワーゲームの舞台になってきた。
とりわけ中国は西側世界から批判される「債務の罠(わな)」で、ハンバントタ港の99年間の運営権を取得し、日印が共同参入することに決まっていたコロンボ港東コンテナターミナル(ECT)に割って入る形で中国国有企業がその開発事業をもぎ取った。ユーラシア大陸の東西を陸と海でつなぐ中国の一帯一路構想は、その地域のインフラ整備をステップボードに、中国人民解放軍の拠点確保という安全保障が絡む。こうした中国の進出を懸念する米国やインドなどが、積極的にスリランカにアプローチする形でパワーゲームは展開している。
なおマルキスト出身のディサナヤカ氏は長年、インドと距離を取ってきたが近年はそのインドも訪問している。現実問題の解決を迫られる政治家は、100点満点ではなく60点をクリアする必要がある。これから始まるIMFとの再交渉や西側諸国と中国のはざまで外交・安保の舵(かじ)をどう取るのか。まずはお手並み、拝見だ。