【記者の視点】訪日外国人の増加に思う

編集委員 太田 和宏

円安ドル高の影響もあって、訪日外国人客が増加傾向にある。直近では円高方向に切り返されているが、その傾向は変わっていない。訪日外国人たちは、円安で割安感の高まったデパートで物品を買い漁り、有名な観光地を巡り歩くだけではない。地方の珍しい文化に触れたり、中には地方の古民家に定住して言葉を学び、古文を読み解き、世界に広める人まで現れている。

米国で日本文化を広めた『なんで日本研究するの?』の編著者であるシュミット堀佐知さん(金沢市出身)は米国に渡り、結婚し、米国籍を得た学者だ。日本古典文学を専門とし、ダートマス大准教授を務めているが、学生時代に専門で研究していた日本の古典文学は、米国の大学ではほとんど相手にされなかった。

大学の特別講師という立場を与えられ、伝えたかったことは「日本には米国にはない文化がある」ということ。それを伝えるため彼女は「What」何、どんな、何と、ではなく「How」どんなふうに、どんな具合に、どうやってを重視し、如何(いか)に受け止めるかという授業を行ったという。

平安時代の『蜻蛉(かげろう)日記』を通して男が女を訪ねる「一夫多妻」の世界を学生に伝えた。米国では男らしさの象徴として力強さ、勇敢、正義を守る強さなどが言われるが、日本の平安文化では、強いことは野蛮、弱いことは哀れと表現され、正しいことが重要ではなく潔いことが重要視された。米国とはまったく違う世界が日本にあることを知った学生たちは「違う文化があることに興味が湧いた」と面白がって授業に参加しだした。

海外から来日して、タレントとして活躍する外国人は多数いるが、“山形弁を話すヘンな外国人”ダニエル・カールさん(米カリフォルニア州出身)も異色の存在だ。彼は英語指導主事助手として3年間山形県に赴任した。県内に200余ある小中学校に1年がかりで足を運び、珍しがられて歓迎された。日本、特に山形の魅力を山形弁で発信しながら、全国で防災(父親が消防士の影響で)講演活動などをしている。「すんばらしい国だよ、日本は」と海外への発信も行っている。

ドナルド・キーンさんは米ニューヨーク生まれ、貿易商を営む父の影響でヨーロッパを旅行し、仏語、古代ギリシャ語、中国語などの外国語に興味を持ち習得した。ハーバード大、ケンブリッジ大で学び、コロンビア大大学院東洋研究科博士課程を修了。ニューヨークで『源氏物語』と出会い後に京都に定住、ニューヨークと往復する生活を過ごす。日本文化研究の第一人者であり、日本文学の世界的権威でもある。文化功労者、文化勲章なども受章。2019年に心不全のため東京都内の病院で死去。96歳だった。

キーンさんは浄瑠璃の研究者にも多くの知人・友人がいた。2007年の新潟県中越沖地震の復興策として浄瑠璃「弘知法印御伝記」(即身成仏への修行を台本にしたもの)の上演を提案。09年に柏崎市内で約300年ぶりの復活上演が実現した。江戸時代に日本から持ち出された台本と浮世絵が大英博物館で見つかった。弘智法印上人は長岡市の西生寺で「即身成仏」となった。現在は福島県の貫秀寺に安置されている。現地の日本人にすらあまり知られていない題材を上演まで漕(こ)ぎ着けた手腕と人脈には驚かされる。

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