
祭りは地域の住人を結ぶ絆を深める。東京・高田馬場の早稲田大学理工学術院に隣接する戸山公園で今夏、盆踊りを復活させる新宿諏訪(すわ)神社大久保睦総代の金原猛児氏にその意気込みを聞いた。(聞き手=池永達夫)
――コロナ後初となる盆踊りをやろうとしたきっかけは。
同じ町に住む作曲家の山本寛之さんと一緒に飲んでいた時、向こうから言ってきました。
山本さんは、曲をアレンジしたり踊り子さんなど興行スタッフといろいろ親交があるから、ここで盆踊りがあればいいねという話が出たのです。盆踊りは昔はあったし、思い入れは深いものがあります。それを何とか復活させたいという思いは昔からあったものの、コロナ禍で封印せざるを得なかったのですが、コロナも明けて一つやりますかとなりました。
ただ、商店街や町内会に話を持っていっても、すんなりとは受け入れてはくれませんでした。
それで終わったらそれこそ、盆踊りの復活展望は可能性が低くなるばかりですから、今年は小さくてもちゃんとやって来年につなげたいと思っています。
いわば小さく生んで、大きく育てるということです。次回は商店街や町内会を巻き込んだ形に持っていければと思っています。
その小さくやるというのは結構、意味があるのです。
大きい興行となると警備上の問題からガードマンを付けないといけないとか、いろいろ大変になります。誰か熱中症などで倒れるかもしれないから、救護班も整備しないといけません。今回は前もって、主だったところには事情をお知らせしていますが、隣近所からの騒音苦情にも対処する必要があります。
今回、初めてなのでほぼ手探り状態ですが、あんまり来られても困るというのが本音です。
――開催場所は。
今回は早稲田大学理工学術院そばの戸山公園の管理組合が協力してくださり、サービスセンター前の「いこいの広場」噴水の周りで踊れるようになりました。
とりわけ高田馬場というのはミャンマー人が多い土地柄です。
東京の新宿、池袋は中国人が、大久保は韓国人が多くいますが、高田馬場はミャンマー人が多くてコミュニティーをつくっています。こうしたミャンマー人ら外国人も盆踊りの輪に飛び込んでもらえるようにしたいと思っています。
――そのための一工夫があるのですか。
盆踊りの歌は、炭坑節とか昔からあるものをそのまま流すのではなく、山本さんが現代風にアレンジしてくださったり、サンバも入れて国際的な色合いも付けたものになっています。
――仏教徒が多いミャンマー人がサンバですか。
すぐ踊りに入れるから、サンバでいいのです。
日本舞踊は優雅でゆっくりだから、外国人にしてみればもどかしい感じがしますが、サンバだとすぐ踊りの輪に入れるメリットがあります。
炭坑節とか東京音頭の踊りはシンプルで覚えやすいけど、他のは難しかったりもします。
それがサンバだと、リズムだけで踊ることができます。私も聞いてみましたが、それこそ踊りたくなるような音楽でした。
輪になってやらなくても、体でリズムを取って踊れるから、通りがかった人がパッと入って踊ることができます。
それで敢(あ)えて、従来の円形で踊る踊りと両方作ったのです。
結局どれだけ、来た人が踊りの輪に入れるかが今回の盆踊りのポイントになると思います。盆踊りは見るものではなく、一緒に踊ることでその醍醐味(だいごみ)を理解できる伝統文化だと思います。
そうした磁場というか、人を巻き込む踊りの力を発揮できるようにしたつもりです。
踊りは日本舞踊藍川流家元の藍川裕さんが振り付けを工夫してくださいました。藍川さんは歌舞伎舞踊ですから盆踊りは初めてということでした。テレビで振り付けなどやっておられましたので、何人か声を掛けて、踊り子だけで7、8人はそろえてくださいました。
その踊りを見て一般の方が踊りの輪に入ってもらえれば、楽しいものになると思います。
――スケジュールは。
7月27日の1日だけです。
午後4時から5時までが歌謡曲。皆さん、歌い手がそろっています。そして5時からは、歌に合わせて踊れるようにしています。歌は生歌でやる曲とテープで流すのと2種類です。
――歌の特徴は。
盆踊り用の歌です。
今風の歌で山本先生が作られたサンバ調の「大久保通りで恋をして」が入ったり、もう一つは新宿ふるさと音頭、これが平安時代の感じでゆったりとした振り付けになっています。この二つがメインになります。
それにきよしのズンドコ節だとか、東京音頭、炭坑節、ソーラン節といった民謡6曲となっています。あとは調子のいいダンシングヒーローが入っています。
――今回の売りは。
地元の人たちが参加してくれて楽しくやれればそれで十分だと思っていますが、地元住民になってきたミャンマー人など外国人も増えてきているので、外国人を引き入れたインターナショナルな形の盆踊りにしたいと思っています。
外国人も定住組や観光客にしても、日本文化と触れるチャンスを求めているものです。先ほども外国人が東京の盆踊りはどこでやるんだと聞いてきた人がいました。
【メモ】戸山公園で今夏、盆踊りを復活させる3人の世話役は、奇(く)しくも昭和17年生まれの同期の桜だ。ビル経営者の金原氏、作曲家の山本氏、それに日本舞踊の藍川氏とそれぞれ活躍するフィールドは違うけれど、敗戦国日本が戦後、奇跡の復興を成し遂げたものの、何か大事なものを歴史の中に置き忘れてきたことへの危惧は共有している。手弁当のスタッフも皆明るく生き生きと動いている。古き良き日本の底力を見た気がした。
「’24 東京新宿・大久保プレ盆おどり」は、本日27日午後4時から歌謡曲を披露し、同5時から盆踊りが始まる。