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【記者の視点】台湾の国際機関への参加

編集委員 池永 達夫

イタリアで開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、首脳声明で「国際機関への台湾の有意義な参加を支持する」と表明した。同声明では、「台湾海峡の平和と安定の維持が国際社会の安全と繁栄に不可欠であることを再確認する」ことにも言及し、4年連続の立場表明となった。

今回のサミットは、ユーラシア大陸の西の危機であるウクライナ問題が主要テーマとなった一方、ちゃんと東の危機が顕在化しつつある台湾問題にも手を打ったことになる。

中露が参加する国連や20カ国・地域(G20)が機能不全に陥り、自由や法の支配、民主主義といった価値を共有するG7の重要性は高まっている。

台湾外交部(外務省)は直ちに、同サミットの首脳声明に台湾による国際機関参加への支持が明記されたのは初めてだとして「大きな歓迎と心からの感謝」を示した。

とりわけ台湾が国際機関への参加を打診し続けている主なものは、世界保健機関(WHO)のオブザーバー参加と環太平洋連携協定(TPP)への正式加盟だ。

TPPは台湾だけでなく中国も加盟申請をしている。もし中国がTPP加盟を先に承認された場合、新規加盟には全ての現加盟国の承認が必要となることから台湾加盟はほぼ絶望的となる。

TPP加盟と同様、特に台湾が力を入れているのがWHOへのオブザーバー参加だ。その参加申請は1997年から始まり、毎年5月の総会で中国の多数派工作により、議題にもされず却下され続けている。台湾の主権を認めない中国は、「主権国家だけが加盟できるWHOに台湾の参加資格はない」とはねつけ、各国に露骨な圧力をかけ、台湾の参加阻止に動いてきた。

しかし、WHOには国家主権のない国際赤十字やパレスチナ自治政府などもオブザーバー参加している事実がある。何より台湾はWHO非加盟のせいで、疫病などが発生しても、WHOからの医療支援を受けることができないばかりか、その情報網からも漏れてしまっている。疫病対策は一国だけでも対策や情報で穴が開けば、国際的に致命的な影響を及ぼしかねない。それはコロナ禍で世界の共通認識となっているものでもある。「千丈の堤も蟻(あり)の一穴より崩れる」との諺(ことわざ)通りなのだ。

何よりWHO憲章前文には「到達し得る最高基準の健康を享有することは、人種、宗教、政治的信念または経済的もしくは社会的条件の差別なしに万人の有する基本的権利の一つである」とある。台湾のWHOオブザーバー参加の拒否は、このWHO憲章前文の精神にも反している。

中国はこうした合理的な判断さえできないまま、台湾の外交空間を狭めて孤立させることで、台湾併合の外堀を埋めようとの政治的野心を優先させている。それでは台湾の人々の心は、ますます中国から離反していくばかりだ。

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