【記者の視点】経理を泣かせる定額減税

編集委員 床井 明男

鬱陶(うっとう)しい梅雨ももうすぐだが、この時期、筆者にとっては格別な楽しみがある。三大香木の一つ、くちなしである。

今年も5月末から、鉢植えの八重のくちなしが咲き始め、甘い香りを放ち始めた。バニラのような香りがたまらなく好きなのだ。

最近は毎朝、起きては一番に戸を開け、ベランダのくちなしがいくつ花を咲かせているか数え、甘い香りに浸っている。そして、渡哲也の「くちなしの花」もいいが、やはり「…雨上がりの庭で くちなしの香りの やさしさに包まれたなら きっと…」とユーミンの「やさしさに包まれたなら」を思わず口ずさんでしまうのだ。

しかし、この時期、そんな楽しみもゆっくりと味わえないような人たちがいる。政府が経済政策として実施する1人当たり4万円の定額減税で、実務を担う企業や自治体の担当者だ。6月からスタートということで、現在はその最終段階を迎えているが、一度きりの通常外の作業に追われる日々を送っている。

それというのも、既に周知のように、今回の定額減税は、仕組みが減税と給付を組み合わせた複雑な上に、所得税の減税額は給与明細への明記が義務付けられたからだ。

今回の定額減税は、対象が年収2000万円(これでもかなりの高額所得者だが)以下の納税者やその配偶者らで約9500万人に上る。

減税は給与所得者の場合、6月支給分の給料や賞与から控除され、納税額が低くて控除し切れなかった分は7月以降に差し引く。

1年で控除し切れない人には、不足分を1万円単位で切り上げて支給するが、こうした減税と給付での対応は、減税対象者のうち約3200万人が該当するという。このほか、住民税は課税しているが所得税は非課税の世帯には10万円を支給、どちらも非課税の世帯には昨春の物価高対策で支給した3万円に加え7万円を追加で給付する、といった具合で、実に複雑なのだ。

所得税減税額の明記義務付けもあり、企業では給与計算ソフトの改修などの対応も迫られ、事務負担のしわ寄せに不満を募らせている。

定額減税は、物価高で影響を受ける国民生活を支援し、デフレ脱却を確実なものにするというのが趣旨。

しかし、その趣旨を生かそうとするなら、コロナ給付金のような給付だけの方が、実務が簡単でスピード感があり、また支援の実感も強くなって効果もより期待できたはずだが、岸田文雄首相が減税にこだわった。そのこだわりによって、企業などは余計な負担を強いられているわけだ。

そうした負担も、消費増に貢献できれば、多少なりとも報われた気にもなれるが、見通しはかなり不透明。補助金の終了で値上りする電気・ガス代をはじめ、診療報酬の引き上げや防衛増税など今後に予想される負担の増加に、「消費よりは貯蓄」と家計の節約志向は緩みそうもないからだ。政府は約3兆3000億円の減税規模の半分程度が消費に回ると見込むが、1割程度と厳しく見る向きもある。

「増税メガネ」から最近では「恩着せメガネ」と揶揄(やゆ)される岸田首相。政権浮揚狙いにこだわった定額減税だが、快く思えない人が少なからずいることは確かなようだ。

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