岸田首相は今回の裏金問題以前にも、自民党、さらに日本を不必要に混乱に陥れた判断の誤りがあった。
一昨年、令和4年の7月8日、安倍晋三元首相が凶弾に斃(たお)れ、テロリストたる犯人が動機として旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への恨みを漏らした時、そのテロを糾弾しなければならないのに、首相は旧統一教会への批判に踏み切った。
まずは、河野太郎消費者担当相が公正中立であるべき「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」に、当教団を長年糾弾してきた当教団に公正でない人物を任命したことに対して黙認した。
そして旧統一教会を反社会的宗教団体だとして、自民党議員との断絶を宣した。しかも、それを将来に向けてだけではなく過去の接触も問題にした。
が、過去に起こした霊感商法や巨額の寄付金問題でいえば、現在、公明党の支持母体となっている創価学会も該当する。
宗教というものは本来、社会に対して理想をもっているのが通常であり、その実現のために政治家に近づくのは、宗教団体として自然権のようなものである。にもかかわらず、旧統一教会だけに向けて、過去の接触をも問題にして批判を進めたのは異常だといえなくない。
さらに宗教法人法に定める解散命令請求の事由について、これまでの解釈を変えて一夜のうちに民事の法令違反も入るとした。
昨年10月13日、ついに文部科学省が東京地裁に解散命令を請求した。このときに示した文部科学大臣の解散請求の事由は、客観的査証もなく本人が被害者と称する者の申請する被害額をそのまま集計したもので、極めて不当な事由の指摘であった。
また、解散命令とは地裁内で非公開の審議で決定するものであり、もしこのまま進めば、旧統一教会は公開の裁判を受けられないまま解散させられることになる。明らかに憲法32条に規定されている裁判を受ける権利を否定されたことになる。
逆算すれば、宗教法人法の解散命令は、該当教団が刑法に反する犯罪を行うなどして解散事由が事前に社会的に十分に認知されている時にのみ行使できるものだということが判明する。つまり、令和4年、岸田首相が解散事由の解釈を変更したのは宗教法人法の本旨を逸脱したものだったのだ。
旧統一教会への解散命令に関する審議は、違憲状態のなかで粛々と進められているということになる。首相の旧統一教会をめぐる判断は極めて深刻な誤りだったと言わなければならない。
昨年6月16日に成立したいわゆるLGBT理解増進法でも岸田首相は判断を誤り、党内指導で間違った指導をした。
首相は同性婚法制化について「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と言っている。その立場を貫くなら、LGBT法に対して慎重な姿勢を示すはずだった。が、性的少数者を巡って不適切な発言をした秘書官を直ちに更迭して以降、議員立法であるLGBT法の成立を放置し、結果として成立させてしまった。
この法律は何ら緊急性もない上に、施行後、国民の日常生活に混乱を引き起こしており、日本の伝統、文化を破壊する恐れが極めて大きい。自民党内の合同会議の議論では反対意見が多かったのにもかかわらず、部会長等への一任ということで総務会を経て国会に出され、制定されてしまった。
G7広島サミットが迫るなか、米バイデン政権の強力な後押しがあったのも事実だが、自民党総裁、総理として十分に成立阻止できたはずなのに、成立させてしまった。そこに、岸田首相の、首相としての誤った判断があったのであり、その責任は大きい。
これによって、自民党の保守の岩盤支持層の離反が起きてしまった。自民党としては大損害である。