【連載】ハマス掃討へ―試練のイスラエル(1) テロ組織ハマス 慈善と軍事のネットワーク

パレスチナのイスラム組織ハマスの戦闘員ら =2022年12月、ガザ市(AFP時事)

イスラエルをイスラム組織ハマスが奇襲して以来、中東および国際情勢は大きく揺さぶられている。ハマスとは何か、建国以来の危機に立つイスラエルはどう立ち向かうのか論考する。(仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー・新田容子)

ハマスとは「イスラム抵抗運動」を意味し、ムスリム同胞団と連携したテロ組織を指す。目標は、イスラエル国家を完全に破壊し、その廃墟(はいきょ)の上にパレスチナ国家を樹立することだ。

過激なイスラム主義イデオロギー(イスラエルとユダヤ人に対する憎悪)に基づいて設立され、イスラエルとユダヤ人に対するジハード(聖戦)は「イスラム教がイスラエルを消滅させるまで存在し続ける」(ハマス設立憲章前文より)と呼び掛ける。

ハマスはネットワークとして活動するため、柔軟性が高く、追跡が困難。政治的手段、教育、「ダワ」と呼ばれる慈善ネットワークを駆使し、テロ活動に資金を提供するハイブリッド組織だ。「シューラ」(評議会)が意思決定を担当しており、その下に政治指導者がいる。 「軍事部門」は同じ政治指導者に従う。

1987年、ガザ地区を中心として、第1次インティファーダ(イスラエルに対するパレスチナ住民の民衆蜂起や武力闘争による抵抗運動)を起こした。これがハマスの武装組織設立となり、2007年にパレスチナ自治区ガザ地区を武力制圧。その後、イスラエルはハマス撲滅に向けて軍事作戦を12年、14年、21年と行い、今回、10月7日の奇襲攻撃への報復として、イスラエルは1973年以来となる宣戦布告をした。

資金はイランからの提供に加え、主な手段が二つある。 長年にわたり構築してきた、人道的および商業的支援の下で組織の軍事力増強のために送金する国際NGOと民間企業のネットワークだ。NGOの役員の多くは、テロ攻撃への資金提供と計画に直接関与している。

ハマスのテロ活動を維持するために、「ダワ」はテロの加害者とその家族に経済的援助を提供し、イスラエルをハマスの教義に染め、扇動する役割を持つ。このネットワークは、英国、フランス、マレーシア、トルコにある。最近は、イランによる兵器の直接供与への依存度を下げ、海外で学んだ専門知識や密輸、ガザ地区に入ってくる民間財の搾取で独自の兵器を製造し始めている。

ハマスのムハンマド・デイフ最高司令官は攻撃戦略の黒幕で自爆テロ犯を派遣し、イスラエル兵士の誘拐を指揮した。海軍特殊部隊、航空団、ナクバフォース、地下部隊があり、トンネルネットワークはテロ工作員にとって重要なプラットフォームとして機能し、テロ工作員を摘発されることなく訓練し、機動性、武器保管、軍事作戦の実行と管理が可能となっている。

ハマスはパレスチナ人とイスラエル人両方の民間人に対して定期的に戦争犯罪を行っている。国際法とイスラエルおよび国際社会の善意の活用を意図した戦略的選択を取る。民間人の中に軍事インフラを埋め込み、危険にさらし、人間の盾として利用している(10月31日ガザ難民キャンプ爆撃を含む)。長年にわたる国際社会からの援助によってハマスはテロインフラを強化している。

にった・ようこ 防衛大学客員研究員として2016年2月までサイバー戦争概論の戦略の講義を担当。日本安全保障・危機管理学会ロシア部会座長、同学会上席フェロー。日欧安全保障プロジェクトメンバー、米、英、仏、独と連携するサイバーG5専門家会合委員などを歴任。17年より仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー。
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