日本の民主主義が危ない  模倣犯出現 【岸田首相暗殺未遂―有識者の視点】

拓殖大学国際日本文化研究所客員教授 ペマ・ギャルポ

爆発物とみられるものを投げ込み、取り押さえられた木村隆二容疑者=2023年4月15日午前、和歌山市内

岸田文雄首相が衆院補欠選挙の応援のために訪れた和歌山県の漁港で、手製の金属パイプ爆弾を投げ付けられる事件があった。容疑者は首相のわずか1㍍後方に金属パイプ爆弾を投擲(とうてき)しており、爆発までやや間があったことから首相や聴衆は逃げることができたが、爆発物は60㍍離れたコンテナに穴を開ける威力で、首相暗殺未遂事件と捉えるべきだろう。

ペマ・ギャルボ氏

しかし、官房長官までが「ローン・オフェンダー」などという日本人には伝わりづらい言葉を使って、事件の本質を指摘することを避けている。

しかも24歳の木村隆二容疑者は昨年の参院選に被選挙権年齢に達しないため立候補できなかったことを不服に思い裁判を起こし、同選挙中に暗殺された安倍晋三元首相の国葬に反対し、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との「癒着」や、自民党の世襲議員を批判していた。木村容疑者は逮捕され、黙秘を続けているというが、首相への金属パイプ爆弾投擲は政治目的を抱いての政治テロの疑いが濃厚だ。

容疑者自身が立候補できず政治批判を募らせた昨年7月、参院選の最中に安倍元首相銃撃事件が起きた。旧統一教会を信仰する母親の献金を批判し、同教団に反対する山上徹也容疑者が起こした銃撃事件は、旧統一教会へ批判を集中させるために同教団と「近い」と考えた安倍氏を狙ったと言われている。実際、その狙い通りにメディアが旧統一教会批判に明け暮れ、山上容疑者はあたかも「被害者」扱いされた。

だが、それ以上に本質的な問題なのは、日本のメディアがこの歴史的な事件を「暗殺」事件と書かないことだ。なぜなのか。おそらく安倍晋三氏を英雄にしたくないのだろう。安倍氏を殺害した容疑者の犯罪に、結果オーライとばかり「よくやった」と信じられない言葉がネット上に多く見られ、狂ったような事態が展開した。

リンカーン、ケネディなど皆、暗殺とされている。そして今回の銃撃事件は「テロ」(政治的目的を持った殺人)である。そして一部マスコミはテロリストがやりたかったことを助ける方向で報道している。他の国ではあり得ない報道姿勢と言わなければならない。日本における自由と民主主義の危機を感じている。大きなリスクを抱え込んでしまったのではないかと危惧する。

私はダライ・ラマ法王に仕える仏教徒であり、旧統一教会・家庭連合との宗教的な繋(つな)がりは当然ない。従って、彼らを特別に擁護するつもりもない。しかし、今進行している攻撃は、信教の自由の原則に対して重大なリスクを冒しているのではないかと考えるのだ。

私は、「関連団体」と呼ばれる国際勝共連合と関わりのある政治家たち全てが旧統一教会・家庭連合の信者であるとは思わないし、共産主義の危機を排除し共産主義と闘うという理念において互いに協力することは政治家として当然のことだと思う。なぜ、この問題を混同させるのかもよく理解できない。

日本は民主主義国家であり法治国家であるはずだ。それにもかかわらず、メディアが特定の団体や個人に対して裁判前のものにまで断定的に報道し、裁判官のような振る舞いをすることに疑問を感じている。

そして恐れていたように模倣犯が現れ、同じく選挙中に今度は現職の岸田首相の暗殺を企てた。今、日本人が長い間、培ってきた日本の社会が歪(ゆが)んできているような側面を感じ、もう一度、日本人が日本ならではの高度な民度を再興してほしいと思っている。

(寄稿)

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