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自民党総裁選、どうしても「背後に安倍前首相」としたい新潮と文春


首相在職最長「自由民主」 実績強調の裏に多弱野党

安倍晋三首相は首相在職日数が最長の桂太郎と並んだ=11月19日、東京・永田町

権力闘争を好む庶民

 自民党総裁選が党員のみならず、国民的関心の中で行われ、岸田文雄元政調会長が新総裁に選ばれた。河野太郎規制改革担当相は世論調査では抜群の人気を誇っていたものの、1回目の投票でも岸田氏に1票差で抜かれて2位となり、決選投票では予想以上の大差を付けられ、事実上“惨敗”した。

 野党は「コロナ禍の中で、国民そっちのけの権力闘争」と批判したが、所詮(しょせん)ごまめの歯ぎしりにすぎない。かつてない熱心な政策論争で国民の関心を引き付け、また、それをメディアが取り上げ、煽(あお)った。野党は自分の批判の空疎さを晒(さら)しただけだった。

 なぜ、総裁選が国民の関心を引き付けたか。「熱心な政策論争」とは言ったが、やはり庶民は権力闘争が好きなのである。それが証拠に、庶民の関心に焦点を当てて編集する週刊誌は、どれも政策論争よりは政治の裏話ばかりを載せている。

 今回は各誌とも総裁選の結果が出る前に締切・発売日を迎えたため、編集には工夫がいっただろう。結果をある程度予測して紙面を作らなければならないからだ。だが、なまじ予想して外すとマズいので、背景を描くことになる。そこで頻繁に登場するのが「安倍」の単語だ。総裁選は結局、安倍晋三元総裁がキーパーソンだったというものだ。

各陣営のSNS戦略

 週刊新潮(10月7日号)は、「キングメーカーを狙った人々の策動が入り乱れた総裁選」と結論付けた。「今回は安倍・麻生連合と菅・二階連合の対立構図」(政治アナリストの伊藤惇夫氏)だったという見方だ。「長老たちの影響力をいかに排除できるかが、新政権の課題となるでしょう」。当たり前の分析で、面白くない。

 河野氏の年金改革が批判されたことや「キレ」やすい性格を指して「総理の器に疑義」だとか、「対中国政策で岸田さんは頼りない」とか、両者のマイナス面を挙げたが、結局「長老の影響」が記事の焦点になっていて、それ以上には踏み込んでいない。

 週刊文春(10月7日号)が各陣営の駆使したSNS戦略に焦点を当てたのは、いかにも今風だが、その実、今後の選挙トレンドをしっかり押さ えている。河野氏は240万人のフォロアーを持ち、影響力も強い。これが“国民的人気”を支えている面もあるだろう。一方で、岸田氏、高市早苗前総務相がSNSに熱心だとは聞いたことがない。だから河野氏の影響力にどう対抗するかが課題となった。

 ネット上で俄然(がぜん)動きがよかったのが、同誌が「凄まじい“攻勢”」という高市陣営だ。同陣営は「デジタル為書」を用いた。デジタル為書とは「HP上で高市氏への応援メッセージを書き込むと『為書』としてSNS上で拡散する仕組み」(自民党関係者)だという。

 東京大学大学院・鳥海不二夫教授がビッグデータを分析すると、「〈高市〉というワードが含まれる投稿は約五百万件でした。一方の〈河野〉は約四百万件。僅差に見えますが、〈河野〉投稿のほとんどは高市氏を支持するツイートを行っていた人たちが河野氏を批判する内容でした」とのこと。

党改革が進む可能性

 だが、やはり選挙は最後は「アナログ」がものをいう。安倍氏の“地上戦”だ。河野支持の議員に直接、携帯電話をかけて引き剥がしたという。「安倍氏らの“攻撃”に押され、(河野支持の)国会議員票は伸び悩」んだというほどだ。

 それもこれも、「河野を総理にしてはいけない」という安倍氏の強い信念からだが、その動機は何か。「復権を目論む」と同誌は言うが、それはどうだろう。

 一方、安倍攻勢に対抗したのが菅義偉首相である。河野、小泉進次郎環境相、石破茂元幹事長らを「裏でコントロールしてきた」と同誌は書く。であるならば、自民党は「ノーサイド」どころではなく、大きく分裂の様相を呈したことになる。見方によれば、この方が党改革が進むのではないか。談論風発は自民党の良さでもある。
(岩崎 哲)