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まやかしの日米地位協定改定論、改定しても犯罪は減らず


《 沖 縄 時 評 》

協定締結は国際的常識

 日米地位協定の改定が問題にされているが、日本が外国と結んでいる地位協定は米国だけではない。自衛隊を派遣している全ての国と地位協定を結んでいる。日米地位協定改定を問題にするなら自衛隊派遣国との地位協定も対象にすべきである。

派遣国に刑事管轄権

協定締結は国際的常識 改定しても犯罪は減らず

ケネディ駐日米大使(左から3人目)らと会談する、岸田文雄外相(右から2人目)と中谷元防衛相(当時=同3人目)=7月5日、東京都港区の外務省飯倉公館

 カンボジアPKO派遣 陸上自衛隊は、1992年9月から93年9月までの1年間、カンボジアのタケオ州に「日本施設大隊」約1200人の自衛官を、カンボジアPKO(国連カンボジア暫定機構=UNTAC)の構成員として駐留させた。

 国連軍地位協定モデル案47項bによれば、「国連平和維持活動の軍事部門の軍事構成員は、受け入れ国・地域で犯すことのある全ての犯罪について、各参加国の専属管轄に属する。すなわち、PKO軍要員がPKO公務内だけでなく、PKO公務外での犯罪行為を行ったとしても、彼らへの刑事管轄権は、PKO受け入れ国ではなく、派遣国が専属的に行使できる。

 カンボジア派遣の自衛隊員による交通事故3件が発生し、軍隊派遣国の日本がそれぞれ関係者の処分をしている。

 ザイール難民救援派遣 94年4月、ルワンダでは内戦が再発・激化したことにより、大量難民が周辺諸国に流入し、隣国ザイールには難民総数が140万人を超えるに至った。このような状況の中で、陸上自衛隊は、ルワンダ難民の救援活動のために、94年9月から12月までザイール東部のゴマ市に「ルワンダ難民救援隊」として約260人が駐留した。

 駐留に関しては、日本は、94年9月12日にザイール共和国の同意を得た。派遣隊員の法的地位については、日本・ザイール間で、外交関係条約に定める「事務および技術職員」と同等の法的地位を享有することを確認する外交上の公文を取り交わした。

 ザイールは、自衛官をいかなる方法によっても抑留しまたは拘禁することができないし、公務遂行中であるか公務外であるかにかかわらず、自衛官に対する刑事管轄権は、軍隊派遣国日本の専属となった。

 イラク復興支援派遣 陸自隊員は連合国軍の一員となり、イラクの法手続きから免除された。「全ての連合国要員」は、その母国の専属的管轄権に服しイラクの刑事、民事および行政管轄権から逮捕または抑留からも免除された。

 また、日本で刑事制裁がない行為をイラクで犯した自衛隊員について、イラクに管轄権の放棄を要請することができた。

 イラク駐留の自衛隊員に関する刑事管轄権は、派遣国・日本の専属であったのである。

 クウェート空輸支援派遣 クウェート駐留の自衛隊員は、外交関係条約上の「事務および技術職員」の特権免除を享有することから、ルワンダ難民支援派遣と同様に、受け入れ国の刑事裁判権から完全に免除された。

 ジブチ海賊対処派遣 ジブチ派遣の自衛隊員は、外交関係条約上の「事務および技術職員」の特権免除を享有することから、ザイール派遣やクウェート派遣と同様に、受け入れ国の刑事裁判権から完全に免除され、派遣国・日本の専属管轄となった。

全ての派遣先と協定

 日本政府は自衛隊を派遣した国の全てと地位協定を結んでいる。地位協定では公務外の犯罪であっても日本に管轄権があった。カンボジアでは自衛隊員による交通事故が3件発生したが、カンボジアではなく日本が処分をしている。自衛隊を派遣した国では派遣国である日本に裁判する権利がある。それが国際的に行われている地位協定である。

 派遣する国にとって軍人の人権を守るために地位協定を結ぶことは非常に重要である。絶対に結ばなければならない。それが国際的常識である。

 日米地位協定改定を主張している共産党や左系識者は勤務内での犯罪も日本の法律で裁くことを要求している。日本駐留の米兵は米国人としての権利を放棄しろというのである。それは外国に派遣する自衛隊員に日本国民としての権利を放棄しろというのと同じである。

 米政府は「日米地位協定」改定には応じないと発表した。当然である。軍人を派遣した国の法律で裁くことが地位協定の本質であるからだ。

 外国に軍隊を派遣する時に地位協定を結ぶのは国際的な常識である。日本も自衛隊を外国に派遣する時には地位協定を結んでいる。国際的には地位協定を結ぶのは当然なことであるのに、地位協定を米国と日本だけの問題であるように矮小(わいしょう)化して、米兵の犯罪を日本の法律で裁かないのを不平等であると共産党や左系識者が主張する本当の目的は地位協定を改定することではない。県民の反米意識を高めるためである。

 地位協定改定要求は日米政府非難と米軍基地撤去運動に利用しているだけである。それ以外の理由はない。

 共産党も左系識者も日米政府が地位協定の抜本的改定をしないことを本当は知っている。知っているからこそ盛んに地位協定改定を主張し、日米政府への悪印象を世間に広げているのである。

 「米兵を優遇している地位協定がある限り米兵の犯罪はなくならない。地位協定を全面的に改定して、米兵の犯罪は勤務外であろうが勤務中であろうが日本警察が捜査し、起訴・裁判も日本がやるようにすれば米兵の犯罪はなくなる」という考えを、地位協定改定を主張する根拠にしている。

 米兵の全ての犯罪に日本の法律を適用すれば犯罪がなくなると考えるのはばかげている。そんなことで犯罪が減ることはあり得ない。ところが地位協定を改定すれば米兵の犯罪がなくなるというのである。

 米軍基地所在の自治体で構成する渉外関係主要都道府県知事連絡協議会(渉外知事会、会長・黒岩祐治神奈川県知事)は3日、政府や米国大使館で、日米地位協定の改定を要請した。県議会、市町村議会も地位協定の改定を決議している。

 改定する目的を安慶田光男副知事は次のように述べている。

 「軍人、軍属は地位協定に守られているという認識がある。沖縄は復帰以前から植民地的支配におかれ、そういう(意識)がまだ抜けきれない。改定しないと事件の再発防止は難しい」

 改定すれば事件の再発防止に効果があると安慶田副知事は述べている。地位協定を改定すれば米兵の犯罪がなくなるというのである。

 日本の法律を適用している日本国民の犯罪がゼロであれば日本の法律を適用すれば米兵の犯罪もなくなるという理屈は正当であると言えるが、国民の犯罪は多い。米兵の犯罪でいつも問題にされるのが婦女暴行であるが、国民の婦女暴行は多いし後を絶たない。日本の法律を適用すれば米兵の犯罪がなくなるというのは妄信である。地位協定が米兵を守っているという考えは間違っている。

効果ないと新報報道

 琉球新報は「米軍関係起訴率18・7% 2015年一般刑法犯 特別扱い浮き彫り」を掲載した。

 「2015年の1年間に国内で発生した米軍関係者(米兵・軍属・家族)による『一般刑法犯』(刑法犯から交通事故による業務上過失致死傷、重過失致死傷を除く)の起訴率が約18・7%だったことが2日、日本平和委員会の調べで分かった。14年の米軍関係者の起訴率は15・6%で、同年の日本人も含めた起訴率38・5%に比べると大幅に低く、米軍関係者の犯罪が依然として特別扱いされている現状が浮き彫りとなった」(琉球新報)

 ところがこの15・6%の起訴率は全国の起訴率であって沖縄の起訴率ではなかった。沖縄の起訴率について琉球新報は、「一方、15年の沖縄県内における米軍関係者の同起訴率は約34%だった」と述べている。

 沖縄の起訴率は34%であり、全国の18・7%よりはるかに高く日本人も含めた起訴率に近い。

 米軍基地関係者の起訴は本土の方は地位協定の影響を受けているが沖縄は影響を受けていないということだ。沖縄は地位協定を改定しても起訴率が高くなるということはない。琉球新報の記事がその事実を明らかにしたのである。

(小説家・又吉 康隆)