
憲法改正の国会発議に向けて衆・参両院の憲法審査会が審議を始めた。衆院選で自民党・日本維新の会の連立与党が改憲発議に必要な3分の2以上の議席を同院で確保。高市早苗首相は、来年には国会発議のめどを立てたいと表明した。参院はなお少数与党ながら改憲派野党の議席が増え、憲法改正は現実的な政治日程に上りつつある。(窪田伸雄)
日本国憲法が占領期に制定されて以来、改憲論議の焦点は戦争放棄、軍の不保持を定めた9条だ。これを〝平和憲法〟と称した護憲世論は敗戦の傷を負った国民感情に浸透。周辺国は軍備を増強する中、倒錯した平和主義が体制化した。閣僚の改憲発言はタブー視され、1993年の段階でも当時の中西啓介防衛庁長官の憲法見直しに踏み込んだ発言を野党が批判し、辞任に追い込まれている。
自衛隊も当初は「違憲」と批判されたが、徐々に受け入れられ、今日では国民の殆(ほとん)どが支持している。歴代政権は「憲法上軍隊ではないが国際法上は軍隊として扱われている」と見解を示してきた。この矛盾を解消する憲法改正案として、既に自民は日本国憲法改正草案を野党時代の2012年に発表した。
内容を要約すると、戦争放棄と武力威嚇を国際紛争解決の手段としない9条1項をほぼ残し、2項に「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」との条文を置いた。
また、「9条の2」として「内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」として5項にわたる国防軍規定を置いている。さらに「9条の3」として国は国民と協力して領土保全と資源確保をすべしと謳(うた)っている。
ただ、政権復帰すると自民は改憲を①自衛隊の明記②緊急事態条項の創設③参院選挙区合区解消・地方公共団体の在り方の見直し④教育の充実―の4項目とする方針に変えた。しかし、「自衛隊の明記」だけでは、従来と変わらない疑問点もある。
元航空幕僚長の田母神俊雄氏は「憲法改正の本丸は自衛隊を正規日本軍にすることだ」と指摘する。「いろいろと自衛隊の手足を縛ることはやめるべきだ。世界標準の軍として国際法で行動できる自衛隊にすべきだと思う」と強調し、その意味では12年に自民がまとめた「日本国憲法改正草案を支持する」と述べ、国防軍明記を期待した。
外国は自衛隊を軍隊として扱うものの、日本の憲法を周知しているとは限らない。このため首相自らがトランプ米大統領に「法的にできることとできないこと」を説明したのが、3月19日にワシントンで行われた日米首脳会談だった。
これに先立つ昨年10月28日、政権発足から間もない高市首相は来日したトランプ氏との日米首脳会談で「同盟の新たな黄金時代をつくりたい」と述べ、トランプ氏は「日本は最も重要な同盟国だ」と応じた。しかし、この言葉は4カ月後に試されることになる。
米国は2月28日、イスラエルと共にイランを攻撃する「壮大な怒り」作戦を開始。イランは中東の原油・天然ガスの海運航路の要衝であるホルムズ海峡を事実上封鎖した。トランプ氏は3月15日、日本など複数の国に艦艇派遣を要請。軍を持つ国は政治判断で見送ったが、9条で軍を持たない日本は「法的にできることとできないこと」の講釈に追われることになる。
原油・天然ガスを中東に依存する日本にとって、中東湾岸諸国の軍事情勢に脅かされる海運ルートの安全確保は常に憲法9条論議に発展してきた。イラン・イスラム革命、イラン・イラク戦争、イラクのクウェート侵攻と湾岸戦争、イラク戦争など有事に際して、国際社会から「国力にふさわしい責任分担」として掃海艇派遣などの貢献を求められてきた。
80年代は米国から要請された掃海艇派遣を見送った。91年の湾岸戦争に130億㌦の戦費を負担した日本は国際社会から「カネで済ませた」と批判され、終戦後に掃海艇を派遣した。その後、国際貢献策として自衛隊を海外派遣する国連平和維持活動(PKO)協力法、テロ対策特別措置法、イラク復興支援特別措置法を制定している。
しかし9条により戦闘地域に入らない、武器使用原則など厳格な規制を設けている。また根拠は憲法前文の精神で、国連決議に基づいた集団安全保障を容認する解釈だ。集団的自衛権の行使を一部可能とする安保法も15年に制定され、目下のホルムズ海峡事態でも検討事項の一つに挙がった。
9条のままでは法律で「自衛隊の手足を縛る」ことになる。普通の国のように軍とする改憲があってしかるべきだ。






