トップ国内防衛中国のビスマルク戦略は平和を偽装した戦争準備

中国のビスマルク戦略は平和を偽装した戦争準備

戦争学研究家 上岡龍次

●反発する中国

中国は1949年10月1日に建国してからチベット・東トルキスタンなどに侵攻した。そして中国の統治下に置いてからチベット人・ウイグル人への非人道的行為が何度も批判されている。中国は建国してからアメリカを敵と見なして軍事力を増強している。

さらに日本に対して経済では友好的だとしても政治・軍事で高圧的な態度で挑んでいる。2000年になると中国はアメリカが進めたグローバルスタンダードの波に乗り世界の工場と呼ばれるまで成長。中国は潤沢な資金を投じて軍事力を増強し日本だけではなく欧米からも危険視されるまでに至った。だが中国は、悪いのは日本であり世界だと過ちを認めない。

●中国が使うビスマルク戦略

日本から見れば中国の軍事力を用いた圧力は危険そのもの。放置すれば中国が日本を併合する勢いだ。この危機感から防衛省が2025年版防衛白書で中国に対する懸念を記した。これを知った中国は強烈な不満を示し、「正当で合理的だ。他国と進める軍事協力は国際法と国際慣例に合致している」と反発した。

■中国、日本の防衛白書に抗議「強烈な不満と断固反対」 「歴史の罪責への反省」も要求
https://www.sankei.com/article/20250715-NZMFX2JHVVL3FIKWB5MNGWJ6VE/

中国は覇権を拡大すると南シナ海に位置する南沙諸島領有を強化する。中国は1970年代から尖閣諸島を巡り領土を主張する国々と衝突開始。2015年から浅瀬を埋め立てて施設を建設していることが確認された。中国は強引に人工的に島を作り基地化することでアメリカとの関係が急速に悪化した。

緊急発進(スクランブル)指令を受け、F15戦闘機に駆け寄る空自パイロット(令和元年版防衛白書より)

アメリカ海軍から見れば浅瀬を埋め立てて基地化することは戦争準備。何故なら第二次世界大戦時のアメリカ海軍はフィリピンとグアムの間に在るウルシー環礁を短期間で基地に変えて日本海軍と戦闘した過去がある。地上戦では等間隔に兵站基地を置けるが海では置くことができない。このため島・環礁などは基地・泊地を置くことができるから戦略で重要になる。

アメリカ海軍は日本海軍との戦闘でウルシー環礁を基地化した経験があるから中国の南沙諸島の島々を基地化したことは明確な戦闘意思になる。だが中国は自国の覇権拡大と軍事力増強を無視して外国が悪いと主張している。さらに自国の軍事力拡大は平和のためだと主張するが、歴史を見るとビスマルク戦略(外交)が戦争準備だと現代に教えている。

ビスマルク戦略(ビスマルク外交):軍備増強は外国に脅威を与えないと誤魔化す戦略

1862年にプロイセンのビスマルクは「鉄(大砲)と血(兵士)がなければドイツ連邦の融和はない」としてプロイセン(ウイルヘルム一世)の首相兼外相になり軍備を強化した。プロイセンの軍備増強に脅威を感じたデンマーク・オーストリア・フランスは反発する。周辺諸国の反発に対してビスマルクは返答した。

・ビスマルク:「プロイセンの軍備増強はドイツ連邦の安全のため」
・中国   :「平和発展の道を堅持している」

ビスマルクはドイツ連邦の安全のためと説明し、中国は平和発展の道だと説明した。どちらも“軍備増強は外国に脅威を与えないと誤魔化す戦略”で一致している。プロイセンは脅威ではないと言いながら2年後からデンマーク・オーストリア・フランスと戦争して勝利した。中国は以前から戦争準備しているからビスマルク戦略が露骨になれば遅かれ早かれ戦争を始める。

●中国の戦争準備と欠陥

中国海軍の空母2隻が6月に太平洋上でアメリカ空母打撃群の迎撃を想定した演習を実施していた。中国は「平和発展の道を堅持している」と日本に怒っても実際にしていることは日米への軍事的恫喝。露骨にアメリカ海軍と中国海軍による空母同士の戦闘を想定している。明らかな中国による戦争準備だが、同時に中国海軍の致命的な欠陥を世界に示した。その欠陥は中国の空母運用は陸戦思想であり海戦思想ではないことだ。

■中国空母が日本周辺で米空母の迎撃訓練、米軍役と中国軍に分かれ対抗…台湾有事を見据え実施か
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250717-OYT1T50216/

・海軍戦略=艦隊+基地ネットワーク
・海洋戦略=目的(制海権の獲得)・手段(敵艦隊+敵基地ネットワークの破壊)・方法(艦隊と・基地ネットワークの造成)

・制海権=艦隊+基地ネットワークの継続利用。
・制空権=戦闘機隊+基地ネットワークの継続利用。

海戦は陸戦とは異なり補給基地を安易に置けない。このため島・環礁を基地・泊地に変えて作戦する。このため艦隊と基地ネットワークが海軍戦略になる。さらに制海権は基地から継続的に往復することで獲得できるから、常に基地・泊地同士が連結していることが前提条件になる。

陸戦思想は必要性の世界であり燃料が尽きてもその場に留まれる。それに対して海戦思想は空と海は可能性の世界であり燃料が尽きたら海を漂流するか墜落する世界。陸戦思想と海戦思想は明確に違いがあり陸戦思想を海戦に持ち込むことは敗北を意味する。これは3000年の戦争史が示しているが、中国の空母運用は基地ネットワークを無視した典型的な陸戦思想。

仮に中国が日本周辺でアメリカ空母打撃群を迎撃するなら、中国は台湾・沖縄・九州を占領しないと実行できない。さらに中国が台湾・沖縄を占領しないで第二列島線で空母同士の戦闘を行うと、進出した中国空母艦隊は台湾・沖縄の航空戦力に後方を遮断され孤立無援。さらに沖縄から出撃したアメリカ軍航空戦力とアメリカ海軍空母打撃群の連携攻撃で殲滅される。

これは第二次世界大戦時のアメリカ海軍が海の機動防御を日本海軍相手に使っている。その典型例がミッドウェイ海戦。アメリカ海軍はミッドウェイ島で日本海軍の空母艦隊を拘束しアメリカ海軍の空母艦隊で攻撃した。アメリカ海軍は島に戦闘機隊を配置して島の戦闘機隊が制空権を獲得する。アメリカ海軍の空母艦隊は自軍の制空権下を機動し日本の空母艦隊を攻撃している。

日本海軍は基地・泊地の基地ネットワーク外だがアメリカ海軍は基地ネットワークの中で戦闘した。この典型的な例が示すように、今の中国は戦訓を無視した陸戦思想を海戦に適用している。これでは中国が空母艦隊を保有しても敗北の道を進んでいる。

・北太平洋の管制 :横須賀・佐世保・ミッドウェイ島
・中部太平洋の管制:グアム・マニラ
・西太平洋の管制 :沖縄

中国が想定する第二列島線でアメリカ海軍と空母戦を行うなら台湾だけではなく上記を基地にしなければ成立しない。今の中国は台湾すら占領していないのに第二列島線で空母戦を行うことは自殺行為。そもそも台湾は沖縄占領の土台になるから、中国が台湾を占領しなければ何も始まらない。

●台湾と東シナ海

中国は威勢良く第二列島線でアメリカ海軍と戦闘することを想定しているが、台湾・沖縄を占領してこそアメリカ海軍に挑戦権を持てる。さらに中国が台湾を占領することで日米の海上交通路を遮断できるから政治・経済・軍事で優位に立てる。このため僅か一手で日米に“お前はもう死んでいる”と言える世界。それなのに中国は台湾占領を進めないで第二列島線で日米を脅すことに終始している。

さらに言えば日米は東シナ海を封鎖するだけで中国海軍の太平洋進出を止めることができる。何故なら中国海軍の大規模基地は渤海周辺に置かれているから、中国海軍の水上艦・潜水艦は全て東シナ海を経由しなければ出入りができない致命的な弱点を抱えている。

仮に中国とアメリカが戦争を始めれば日米の連合艦隊が東シナ海を封鎖して制海権を獲得する。もしくはアメリカ海軍は機雷を用いて東シナ海を封鎖するだろう。そうなれば中国海軍は第二列島線に行くことなく渤海に封鎖される。さらに太平洋から渤海に戻ることもできないことになる。

中国が本当に海戦思想を理解しているならば台湾占領を最優先し上海から台湾付近の沿岸に有力な基地を作り、内陸には兵站基地と制空権を獲得する空軍基地を配置する。そうしなければ東シナ海の制空権・制海権を獲得できないからだ。それなのに中国は配置を怠り派手なことばかりしている。

(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)

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