トップ国内防衛自衛隊の戦闘教義がない統合運用は問題だ

自衛隊の戦闘教義がない統合運用は問題だ

●遅い統合運用

欧米の軍隊は陸海空の戦力を統合運用するのが基本。欧米の軍隊は国防大臣が政治家に対して軍政の補佐を行い、参謀総長が政治家に対して軍令の補佐を行っている。これまでの日本は自衛隊の統合幕僚長が軍令の補佐と部隊運用を調整していた。

これが日本の自衛隊は2025年3月24日から統合幕僚長は軍令の補佐に専念し、統合作戦司令部が発足した。日本は戦後から国防に適した組織に変えられていたが、2025年になり欧米の軍隊に近い状態になっている悲しい現実が存在する。

日米合同軍事演習「キーンソード23」が行われ、在日米軍司令官リッキー・N・ラップ中将と自衛隊統合幕僚長山崎幸二大将が、日本のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」(DDH-183)艦上で記者会見を行った(2022年11月14日/UPI)

●日本の国防が欧米に近づいた

政治家は軍隊に対して軍政を持ち軍令を持つ軍隊に戦争の政治目的を与える。軍隊は政治家から戦争の政治目的に適合した軍隊運用と戦場を設定する。国際政治は善悪である法の論理ではなく勝つか負けるかの力の論理で動く。これを実現するために欧米の軍隊は軍政と軍令に分けて運用し、政治家は軍政を持ち軍隊は軍令を持つ。

国防大臣が政治家に対して軍政の補佐を行い、参謀総長が政治家に対して軍令の補佐を行っている。これは権力の分散と同時に負担軽減も意味する。だが自衛隊は統合幕僚長が軍令の補佐と陸海空への命令を行っていた。これは精神的・肉体的な負担が多く、有事になると政治家に対して軍令の補佐と陸海空に対して命令を出す過剰な仕事量になる。

・軍政:宣戦布告・停戦・休戦・国軍に戦争の政治目的を付与する。
・軍令:軍隊の組織と運用は経験則に従い原則として自由。

・国防大臣:軍政の補佐
・参謀総長:軍政に適した作戦戦力・作戦期間・戦域設定としての軍令の補佐

■統合作戦司令部発足、南雲司令官「平素から有事までシームレスに対応」…陸海空の自衛隊を一元的に指揮
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250324-OYT1T50147/

それが2025年3月24日から分離され陸海空の統合運用を統合作戦司令部が行うようになった。これは自衛隊の運用から見れば良いことだが、致命的な問題は陸海空が想定する戦場が統一されていない問題を抱えている。

●統合運用するための戦闘教義がない

戦後から自衛隊は陸海空がバラバラの戦場を想定しているから統合運用は難しい。これは欧米の軍隊が得意技と言える戦闘教義を定め、陸海空の軍隊が共通の戦場で戦うことと異なっている。

・一点突破理論:ドイツ軍の電撃戦・アメリカ軍のエアーランドバトルドクトリン
・二点突破理論:ソ連軍の縦深攻撃理論

欧米の軍隊はイギリスのフラー将軍が記した“機甲戦”で一点突破理論か二点突破理論のどちらかを戦闘教義の土台としている。有名なのは第二次世界大戦でドイツ軍が用いた機甲戦は速度を優先した一点突破理論の戦闘教義。戦後はアメリカ軍のエアーランドバトルドクトリンに採用された。ボクシングで言えば軽量級ボクサーであり、軽いフットワークで敵を翻弄し敵の弱点である顎を狙って倒す戦い方になる。

二点突破理論は第二次世界大戦でソ連軍に採用され縦深攻撃理論として発展した。二点突破理論は速度よりも量を優先した戦闘教義で、今のロシア軍・人民解放軍の旧東側系列が採用している。二点突破理論の場合のボクサーは正面から敵の懐に進み敵のボディブローの連続で時間を掛けて弱体化させる戦い方になる。

ボクシングのように戦い方を定めて適合した訓練をする。そして敵を自分の戦い方に適合した状態に引き込んで勝利する。これが欧米の軍隊では基本だが自衛隊では陸海空が想定する戦場がバラバラなので統合作戦司令部が発足しても絵に描いた餅。

・国防方針   :領土・領海・領空を戦場にしない(戦場は国境から国防線の緩衝地帯)
・海洋国家の戦場:大陸の港の背中(海岸から内陸まで200kmが侵攻限界)

【国防方針の手順】
1:国防の基本方針で防衛の目標を定める。
2:どのように守るかの「戦略」を立てる。
3:仮想敵国に対する「防衛戦争計画(Defense war plan)」と「有事動員計画」を作成するとともに、予期しない脅威の発生に対応する「不測事態対処計画(contingency plan)」を備えておく。
4:防衛戦争の危険が発生しないように国際社会と協力する「関与の戦略」を立てる。
5:戦闘ドクトリンを研究開発し、それを演練する常備軍を編制する。そして防衛戦争計画と動員計画の発動に備えた「平時体制」を整備する。
6:防衛インフラストラクチャーを強化するため基地を戦略的に展開・整備する。

日本は海洋国家だから大陸の海岸線が陸海空の自衛隊で共通する戦場にしなければならない。陸海空で共通する戦場が定まれば兵器開発・訓練・補給・基地ネットワークも定まる。さらに日本であれば一点突破理論になるが、それでも海岸から襲撃するのか火力を投射するかで兵器開発・運用が異なる。

【海岸からの襲撃】
・空母は30機運用で発艦はスキージャンプでも良い。
・空母は通常動力型の4隻以上で制空権と制海権を獲得し上陸作戦を火力支援する。
・空母は攻撃用2隻、防御用2隻で同時運用することが求められる。
・戦闘機はF-35B型を使い海岸に基地を設置する。
・大陸側海岸に進出するために基地建設部隊・整備部隊・補給部隊・基地を守る防御部隊がワンセットになる。
・陸上自衛隊による上陸と撤退が求められるが戦いながら撤退することが難しい。
・揚陸艦はエア・クッション型揚陸艇を2隻とし短時間での上陸と撤退を優先し補給物資が少なくなる。

【海岸から火力投射】
・空母は30機運用で発艦はカタパルトが望ましい。
・空母は通常動力型の4隻以上で制空権と制海権を獲得し上陸作戦を火力支援する。
・空母は攻撃用2隻、防御用2隻で同時運用することが求められる。
・戦闘機はF-35C型・F/A-18E/Fになり遠距離攻撃として精密攻撃の兵器開発と運用になる。これは火力で海岸線の敵を排除・拘束することが目的。
・大陸側海岸に進出するために基地建設部隊・整備部隊・補給部隊・基地を守る防御部隊がワンセットになる。しかし襲撃型とは異なり上陸作戦は少なくなる。
・揚陸艦はエア・クッション型揚陸艇を1隻とし補給物資を多くして長期戦ができるようにする。
・海からの火力投射があれば陸上自衛隊の上陸と撤退が容易になる。

それぞれ共通する項目と長所・短所があるので日本に適合した戦闘教義開発が必要。これは今ある兵器を用いても陸海空で統合運用できるまで30年必要になる。だが陸海空で共通する戦場と得意技である戦闘教義を定めれば求められる兵器・性能が判明する。さらに陸海空で共通規格の弾薬・燃料にして兵站を軽くする。何故なら陸海空で規格が異なると戦場で整備・補給が混乱することを第二次世界大戦の日本陸海軍の対立が証明している。

空母は通常動力型30機運用だとしても攻撃用2隻、防御用2隻の同時運用を基本とすべき。何故なら通常動力型であれば原子力空母よりも安い価格になり運用価格も低い。さらに空母を攻撃用2隻、防御用2隻を基本にする理由は第二次世界大戦のミッドウェイ海戦の日本海軍の敗北を戦訓としている。

空母運用を攻撃用と防御用とすれば敵の電波妨害で通信が遮断されても“何が任務か?”が明確だから攻撃部隊は攻撃に専念し防御部隊は防御に専念できる。さらに攻撃用2隻と防御用2隻とすれば、仮に一隻が行動不能に陥っても攻撃・防御機能は停止しない。

【機動の目的論】
「敵を窮地に陥れるように戦術的に運動すること」
「敵の弱点に向かって運動することによって、敵の作戦計画を崩壊させ敵指揮官や敵部隊の神経を麻痺させること」

【機能論】
「戦場において打撃手段を有する部隊の運動を戦術的に操作すること」

統合作戦司令部は陸海空に対して大陸の海岸線を共通の戦場と定め、次に海らかの攻撃を襲撃か火力投射のどちらかに定めなければならない。さらに共通認識として機動の目的論と機能論を持ち思考する必要がある。

●松村劭(陸将補)からの伝言

日本の戦争学と戦闘教義の研究は第二次世界大戦の敗戦から始まった。日本の戦争学の第一世代は旧日本陸海軍の将官・佐官であり松村劭氏は日本の戦争学の第二世代の一人だった。悲しいことに自衛隊は戦争学の第二世代を陸海空から追放している。さらに戦闘教義の研究は松村劭氏が行っていたが追放したことで自衛隊における研究が消えている。

日本は敗戦で戦争に関する研究が忌避されたため欧米の軍隊とは異なり致命的に遅れている。自衛隊で単独の戦闘教義を研究しているとしても、松村劭氏のように陸海空の自衛隊を統合運用する戦闘教義の研究はない。このことを統合作戦司令部が知っているとは思えないが、故人となった松村劭氏の伝言だと思って欲しい。

(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)

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