●未来の戦争を示唆する戦争
ロシアは2022年2月24日にウクライナに侵攻したが戦争は今も続いている。ウクライナ軍は劣勢であり戦車・装甲車などの機甲戦力に対応する兵器が少なかった。ウクライナ軍は苦肉の策として安価なドローンを用いてロシア軍に対抗すると世界が驚く戦果を出す。
ウクライナ軍のドローンの戦果を見たロシア軍もドローンを用いてウクライナ軍に対抗する。ドローンは戦場で使われていたが急速に進歩し、ロシア軍はドローンを用いてウクライナ軍だけではなく民間人まで攻撃する戦略爆撃まで実行した。
ウクライナとロシアの戦争は高価な弾道ミサイルを敵国に撃ち込むだけではなく安価なドローンを用いることが明らかになり、次の戦争に備えた対応が求められている。このため防衛システムは弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機・ドローンなど多岐にわたるものになった。
●未来の戦争に備えるトランプ大統領
アメリカは1980年代にスター・ウォーズ計画として知られる戦略防衛構想を発表した。この構想は衛星軌道上に衛星を配備し地上の迎撃システムと連携して敵国の大陸間弾道弾を各飛翔段階で迎撃してアメリカ本土への被害を最小限にすることを目的にしていた。実際は開発に苦しみ構想を完成できなかった。だがレーザー兵器やミサイル防衛システムなどの技術開発に至っている。
アメリカのトランプ大統領は次世代ミサイル防衛構想ゴールデンドームを発表した。これは地球の軌道上にアメリカの衛星と兵器の巨大ネットワークを構築する構想で約25兆円の費用が見込まれる。まさにスター・ウォーズ計画の再現と言える。
■アングル:トランプ氏の「ゴールデンドーム」構想、本格的な宇宙軍拡競争の幕開けか
https://jp.reuters.com/world/us-politics/NAOB6RPBQZN6HO4SEI6YSFZUAU-2025-05-23/

中国はトランプ大統領のゴールデンドーム構想に危機感を持ったのか反発した。これには理由があり核弾頭ミサイルの迎撃率が上がるので中国は反発した。何故なら核弾頭の迎撃率が50%以上になると核弾頭でアメリカを脅す効果が低下する。こうなるとアメリカは核弾頭を保有しなくても防御の盾であるゴールデンドームの下で通常戦力で戦争できる国に変わる。
仮にゴールデンドーム構想が成功するとアメリカは核弾頭を放棄して通常戦力だけで戦争できる。これはアメリカが「核兵器を保有する国は悪」と宣言して世界に核兵器の廃絶を要求する事もあり得る。そして核兵器を放棄しない国を悪の国として先制攻撃することも正義にできる。
・先制攻撃の区分
攻勢攻撃(Offensive Attack):国際社会で否定される
敵国の国防線を踏み破って奇襲攻撃を仕掛ける。
・防勢攻撃(Defensive Attack):国際社会で肯定される
自国の国防線の中で脅威国が戦争準備した段階で先制攻撃する。
戦例はイラク戦争であり、イラクのフセイン大統領がWMD(大量破壊兵器)の保有意志を公言するとアメリカは国連決議を間接的な宣戦布告としイラク戦争を開始した。当時のアメリカはフセイン大統領のWMDの保有宣言で戦争準備と見なす。これでアメリカは防勢攻撃としての先制攻撃を実行した。
ゴールデンドーム構想が10年以内に完成することはありえない。だが一部だとしてもアメリカ軍を強化することは間違いない。実際にミサイル防衛システムが存在しており、日本が参加すると中国とロシアが反発した。ミサイル防衛システムは防御の盾だが反発する理由は、アメリカと日本が核弾頭を迎撃することは中国とロシアが核弾頭で脅しても無力化されるからだ。
●ドローン対策が求められる
未来の戦争では核弾頭ミサイルに備えるだけでなく安価なドローンに備える必要もある。何故ならドローンは戦場で戦車・装甲車・歩兵を攻撃する戦術爆撃だけではなく民間施設を攻撃する戦略爆撃まで拡大しているからだ。
ウクライナ軍はドイツから提供されたゲパルト対空戦車を運用しドローン・巡航ミサイルを迎撃した。産業廃棄物だと揶揄されたゲパルト対空戦車が迎撃に成功したことで世界を驚かせた。これで安価なドローンの迎撃に高価な対空ミサイルを用いるのではなく安価な対空砲を用いることが有益だと判明した。
確かにレーザー兵器は有益だが実験的でありドローン対策の決定打ではない。このためレーザー兵器は10年以上の歳月で実験部隊から実戦部隊に変化する。だが無数のドローンを迎撃するには技術と数で劣る。このため堅実な機関砲でドローンを迎撃することになる。
ゲパルト対空戦車はエリコンKD 35 mm 機関砲を採用しているが自衛隊が今後も使うことは危険だ。何故ならスイス政府の方針で戦争に関して輸出や提供に制限があることがウクライナで確認されている。これは危険なことで、日本の有事でスイス政府の方針が適用されたら自衛隊はエリコンKD 35 mm 機関砲を使えない状態に陥る。
自衛隊は外国からエリコンKD 35 mm 機関砲の砲弾を受け取れないし、逆に同盟軍に砲弾を提供することもできない。ウクライナ軍を見ると国産だけで戦闘継続できないことが明らかであり、複数の国が生産しても不足している。こうなると日本の国産だけで自衛隊に砲弾供給することは危険であり、複数の国から武器弾薬を購入できる規格の統合化が求められる。
このため日本は欧米の軍隊が採用している武器弾薬を自衛隊の規格に適用しなければならない。例えば30×173mm砲弾は北大西洋条約機構のデファクトスタンダードの一つだから、有事の際は採用国からの提供で戦うことが可能。さらに30×173mm砲弾で時限信管を採用すればドローン対策に転用できる。
30×173mm機関砲と時限信管であれば歩兵戦闘車が自己防衛できるだけではなく、歩兵戦闘車にレーダーを搭載し改修すると簡易版対空砲車両に変わる。戦車と歩兵戦闘車を組み合わせれば歩兵もドローンの攻撃から守る盾となる。
●兵器と弾薬の規格化そして戦闘教義研究
日本独自の兵器は性能で優秀でも戦闘継続できなければ無意味。このため日本は国産兵器に拘らず日本が想定する戦場に適合した兵器・弾薬を選ぶことになる。日本は海洋国家だから大陸の海岸線が陸海空・自衛隊の戦場になる。今の陸海空・自衛隊の致命的な問題は陸海空が想定する戦場が異なることだ。
陸海空が想定する戦場が異なることで統合運用できないのが現実だ。欧米軍は第二次世界大戦から陸海空の統合運用を進めており、特にアメリカはエアー・ランド・バトルドクトリン、エアー・シー・バトルドクトリンなどの戦闘教義を定めて兵器開発と運用を行っている。それに対して日本は戦闘教義(バトルドクトリン)の開発が行われていない。
このため日本は陸海空・自衛隊の統合運用に致命的な問題を抱えている。悲しいことに日本の戦闘教義研究は松村劭(陸将補 故人)氏が行っていたが自衛隊から依願退職と言う名目で追放された。このため自衛隊では陸海空の自衛隊を統合運用する戦闘教義研究は存在しない。
このため自衛隊が統合運用司令部を設立しても30年の歳月で研究開発から実戦部隊の運用まで必要なのだ。人材を追放したことが今の自衛隊を苦しめているが、日本の戦場は大陸の海岸線だと陸海空・自衛隊が定めなければ始まらない。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)





