●トランプ大統領のディール
トランプ大統領が就任してから経済と外交で活溌に動いている。トランプ関税と呼ばれるほど各国に市場を開放するように要求し高関税で脅している。外交ではウクライナとロシアの戦争を止めるように仲裁に入るなど存在感が強い。
これまでのアメリカは親イスラエルだがトランプ大統領は地政学・軍事よりも経済を重視した動きを見せている。アメリカはスエズ運河を守るためにイスラエルを代理人として使っていた。だからアメリカは軍事支援でイスラエルをスエズ運河の防波堤にしていた。このためイスラエルは軍事的優位性を保っていたが、トランプ大統領はサウジアラビア・カタールを優先する動きを見せている。

●これまでとは異なる動き
スエズ運河は大陸国家と海洋国家の地政学で衝突する緊要地形の一つ。第一次世界大戦前のドイツは海外に進出し植民地を得ようとした。だが海洋国家のイギリスが大陸国家であるドイツの拡大を警戒した。何故なら海路をドイツが使うと海洋国家であるイギリスの海上交通路を遮断される可能性がある。
大陸国家のドイツはイギリス海軍に海を封じられて進出が困難。そこでドイツは陸路でアフリカを目指すことにした。これは海洋国家のイギリスから見るとスエズ運河を封鎖する動きに見えたので第一次世界大戦の遠因になった。
■イスラエルの軍事的優位に揺らぎ、トランプ氏中東ディール外交の波紋
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-16/SWCWZ5DWX2PS00
それだけスエズ運河は海洋国家には海上交通路を防衛する軍事と地政学の緊要地形になっている。イスラエルが建国された当初は誰も長く続くとは思わなかった。実際はイスラエル軍の健闘でイスラエル独立を維持した。こうなるとイスラエルを捨てたイギリス・アメリカは海洋国家としてイスラエルをスエズ運河を防衛する代理人に方針変更した。
特にアメリカは世界の警察として活動するから軍事と経済でスエズ運河の防衛は重要になる。さらにイスラエルに武器弾薬を提供することはイスラエル軍が紛争で使うだけではなく、緊急時にはアメリカ軍が弾薬を使うことになる。アメリカ軍から見ればイスラエル軍基地は弾薬の備蓄基地でもある。
だから歴代アメリカ大統領はイスラエル寄りの立場だった。だがトランプ大統領は地政学・軍事よりも経済的な利益を優先したことで中東の軍事バランスを崩す動きを見せている。これはアメリカに頼るイスラエルの問題だけではなく日本の問題でもある。
●国防を外国に頼る悲劇
国防は自国で行う自力本願が基本。イスラエルは建国から周囲を敵に囲まれた絶望的な地勢に置かれている。それでもイスラエルは外国から武器弾薬を購入し、さらに自国生産で生き残る道を選んだ。だからアメリカはイスラエルをスエズ運河防衛を任せる国だと投資されたのだ。
そんなイスラエルがトランプ大統領の経済的な利益を優先させたことで立場が危険になった。これは日本も同じで中国からの侵攻リスクが上がることになる。何故なら大陸国家中国から見れば沖縄は太平洋に進出するための攻撃用陣地になり、日本は軍事・地政学で緊要地形に置かれている。
致命的な違いはイスラエルは自力本願で国防を行うが日本はアメリカ頼みの他力本願。日本は在日米軍がいるからロシア(昔はソ連)・中国は簡単に侵攻できなかった。このため日本が独自の軍事力と憲法9条で独立と平和を維持していない。この現実を見れば日本が自力本願に変えなければミロス島の悲劇を再現することになる。
紀元前の地中海は海洋国家アテネと大陸国家スパルタなどのギリシャ文明が栄えていた。そんな時にミロス島は非武装中立を唱えており、仮に侵攻を受けた場合は「アテネかスパルタに救援を求める」方針だった。これは典型的な他力本願であり国防を軽んじた国の典型。
ミロス島の方針を無視して海洋国家アテネと大陸国家スパルタが戦争を開始して後にペロポネソス戦争(紀元前431-紀元前404)と呼ばれるようになった。最悪なことにミロス島が頼りにしていたアテネとスパルタが戦争を開始すると、アテネは戦略的価値が高いミロス島を予防占領した。何故ならスパルタにミロス島が占領されたら戦略的に不利になる。だからアテネはミロス島を予防占領した。
これで非武装中立を選んだミロス島の結末は悲劇そのもの。アテネ軍はミロス島の屈強な男を殺しミロス島の女は奴隷として売った。これは憲法9条は紀元前の時代から使えない概念であることを現代の日本人に教えている。さらに他力本願だと国民の生命を守れないことを意味しており、自国の軍隊で国民を守り独自の覇権を持つことを現代の日本人に教えている。
・ルクセンブルク
建国時に非武装中立を選んだが第一次世界大戦・第二次世界大戦後、ドイツの侵攻により占領された。1949年にNATOに加盟し非武装中立を放棄。
・ベルギー
永世中立だったが第一次世界大戦・第二次世界大戦後、ドイツの侵攻により占領された。1949年以後からNATOに加盟し永世中立を放棄。アメリカと核兵器シェアリングを行い間接的な核保有国になった。
このように国防を外国に任せると仮想敵国からの侵攻を受けることを歴史が示している。日本は軍拡でアメリカに挑む必要はない。日本は自衛隊総兵力を軍縮規模の50万人まで増員し待遇改善と最新兵器購入でアジア限定の覇権を持てば良い。つまり軍事力を用いたアジアのバランサーだ。これならば日本は台湾と連携して海上交通路を防衛できると同時にアメリカからの支援が停止した時に備えることができる。
●アジアのバランサーは良いことだ
日本の自衛隊総兵力は23万人。これは軍縮規模の50万人よりも少ないから戦争になると損害回復が難しくなる。これを政治家に防衛庁時代から防衛省に変わるまで説明した元陸将補がいたが理解されなかった。根本的に政治家は国防に無関心でありアメリカ頼みの国防方針だから。
日本が自衛隊総兵力を50万人まで増員しアメリカから武器を買えばトランプ大統領は日本を経済的な利益で見る。実際にサウジアラビアとカタールはアメリカ製兵器を買うことでトランプ大統領は好感を持った。
次に日本と台湾が連携しアジアのバランサーになればトランプ大統領は日本と台湾を警戒しない。何故なら日本と台湾がアジアの防波堤となりアメリカ軍の代理人として戦うからだ。それどころかトランプ大統領は日本と台湾を経済的な利益から中国の脅威から外交で守ることを実行する。このための自衛隊を用いた自力本願であり外交としても機能するから有益だ。
致命的な問題は今の政治家の多くが親中派であることだ。このため長年日本は自衛隊を軽んじ独立を見せるための飾りに留められている。最近は親中派の動きが増大し中国による日本侵攻が危ぶまれる。これを回避するには選挙で愛国心のある政治家を選ぶしか道はない。政治に無関心なことはミロス島の悲劇を日本で再現する。だから選挙で愛国心のある政治家を選ぼう。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)